メンタルヘルス科・精神科
古新町こころの診療所
香川県高松市古新町10-3
砂屋ビル6F

TEL: 087-802-2205

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アクセス

  • 電車
    コトデン 片原町駅

医院名
古新町こころの診療所
院長
朝日 宏美
住所
〒760-0025
香川県高松市古新町10-3
砂屋ビル6F
診療科目
メンタルヘルス科・精神科
電話番号
087-802-2205

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▲精神科医のつぶやき▲

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精神科医のつぶやき「てんかんは精神疾患?」 (2025/10/07)

先日、患者さんより、「てんかんは精神疾患ではないと思っているんですが、なぜてんかんの人は、精神障害者手帳を交付されるのですか?」という質問をいただきました。


てんかんの人がすべて精神障害者手帳の取得要件を満たすわけではありませんが、治療状況によっては精神障害者手帳を交付される方もいます。でも確かに、なぜ「精神障害」なのでしょう?これは言われてみて私も、「確かに、なぜだ?」と感じました。


まず、てんかんが精神疾患なのかどうか、というところの確認からですが、もちろん、てんかんは医学的には精神疾患ではありません。

てんかんは、脳の神経細胞が一時的に異常な電気活動を起こすことによって発作が生じる「脳の病気」であり、神経疾患(neurological disorder)に分類されます。


しかし、日本の制度上、「精神障害者保健福祉手帳(以下、精神手帳)」の対象に含まれています。これは制度的・歴史的な経緯によるものであり、医学的な分類とは別の観点で成り立っているということになります。


では、なぜてんかんは「精神障害者保健福祉手帳」の対象になっているのでしょうか?


① 制度上の理由

精神障害者保健福祉手帳は、1995年に精神保健福祉法の改正によって制度化されました。その際の手帳の対象疾患として、以下のような病態が含まれました:


統合失調症

うつ病・躁うつ病

高次脳機能障害(交通事故後など)

発達障害

てんかん

てんかんがここに含まれた理由は、発作に伴う社会的制約や就労困難など、生活機能の障害という観点から配慮が必要とされたためです。


② 歴史的な背景

てんかんはかつて、精神病院での管理対象とされていた歴史があります。特に戦前~昭和中期には、精神病や知的障害と混同され、「特殊教育」や「社会的隔離」の対象とされることもありました。


このため、日本では長らく精神障害に準じた扱いを受けてきた経緯があります。私が研修医の頃は、てんかんの患者さんで精神科に通院されている方が一定数いらっしゃいましたし、精神科医のなかで、てんかんの専門医もたくさんいました。しかし、今ではてんかん専門医をもっている精神科医はかなり少数派になってきております。てんかんの方はほとんどが神経内科か脳神経外科に通院されています。


国際的にはどうなのでしょうか?

WHOの「国際疾病分類(ICD-11)」や、米国精神医学会の「DSM-5」においても、てんかんは神経疾患に分類されています。


実際、欧米ではてんかんは精神障害者の枠組みではなく、身体障害や神経疾患として支援されることが多いです。


今後の展望は?

現時点で日本において、てんかんを精神手帳の対象から外すという動きは明確にはないようです。

ただし、以下のような議論がされています:


「精神障害者保健福祉手帳」という名称自体が実態に合っていない

精神疾患だけでなく、発達障害や高次脳機能障害、てんかんなど多様な状態が含まれるため

「機能障害」や「社会的制約」を軸にした、新しい分類や支援制度が望まれる

また、障害者総合支援法の下では、てんかんのある人も「難病」や「身体障害」「精神障害」とは異なる枠組みで支援対象となる場合があります。こうした制度が今後発展すれば、より適切な支援の枠組みが整う可能性があります。


いずれにせよ、いずれかの段階で、てんかんが「精神障害者手帳」の対象から外れるようになっていく方が良いでしょうね。制度の見直しには時間がかかるでしょうが、病気の分類と制度の分類が一致するようになって欲しいと思います。

精神科医のつぶやき「本から得た知識のシェア|大人の愛着障害」 (2025/10/07)

これもKindle本です。著者の講演を拝聴し、購入しました。紙媒体の本を読み終わったと思ったら、Kindleの中にもたくさん本が残っていました。頑張って読み進めていこうと思います。


心のお医者さんに聞いてみよう 大人の愛着障害 「安心感」と「自己肯定感」を育む方法 (大和出版)

amzn.asia

1,260円


読みたいと思った動機

愛着障害の相談も、トラウマの時代に入って確実に増えています。きちんとした知識として身につけたいと思ったため。


得たい知識

愛着障害の定義、患者さんにどう説明するのがいいのか。それと日々の臨床で役に立つ対処などが知りたい。


イラスト入りの本で読みやすかったです。

愛着障害とどう向き合えばいいかも書かれていて、色々ヒントになることが多かったです。


甘えきらずに大人になった自分を自立させ大人にする

ちゃんと人を頼り、人に甘えられるようになることが「自立」です。自分で頑張るところと、人を頼るところをちゃんと分けられるようになり、頼るべきところは頼るようになるのが「大人」になるということですね。


自分の人生を俯瞰し、「よくがんばったね」とねぎらう

とにかく自分に優しく、自分を大事に。これが他人だったら、どれだけ大変でどれだけ頑張ったか。自分だからダメ出ししてしまうクセを減らして行くことが大事です。


他人に寛容で優しくするのと同じだけ自分にも優しくしてみる

これは私も以前記事に書きました。



親との関係がわるくないなら親と小さい頃のはなしをしてみる

親の気持ちを知ることで、違った視点が持てることもあります。


周囲の人たちにまんべんなくプチ甘えをする

甘えるというのもスキルです。練習しないと上達しません。


生活のなかで助けられたことを思い出して、記憶を上書きする

プチ甘えをしているうちに、昔は甘えていたこと、頼っていたことを思い出すこともあると思います。そうやって、「甘えられない」のではなく「甘えていい」「甘えられる」という自分に上書きしていきます。


心が緩んだら、下面の裏の不完全な自分を受け入れる

少しずつ、周囲に甘えて生きていいという安心感が育まれると、必死になって生きてきた自分を受け入れ、不完全で弱い自分を受け入れて大事にしていく準備ができていきます。人間は完璧でなくていいという当たり前のことを認識することも、愛着障害の人にとっては難しいことなんだなと感じます。


自分を総動員してかわいがり、自分自身を救い出す

これはもはやインナーチャイルドセラピーの話に近いですね。サイコシンセシスの時に紹介したエンプティチェアの技法が紹介されていました。



愛着が生まれてくると、忘れていたいいことを思い出せるようになる

人生、大変だったことが多いけれども、いいこともあったはずなんですね。でも大変すぎてそれを忘れてしまっている。愛着が育まれることで、自分の人生の中にあった大事な思い出を思い出せるようになり、人生の中でバランスが取れるようになると良いと感じます。


こうやってまとめると、愛着障害の方は、いかに自分をかわいがるか、大事にするか、ということがテーマになるようです。そのことを診察でも伝え続けていきたいと思います。

精神科医のつぶやき「公認心理師Bルート指定を見送った理由と、これから考えていること|Bルート指定施設になるのは大変そうです その7」 (2025/07/25)

当院ではこれまで、大学院生の実習を継続的に受け入れ、心理職の育成に微力ながら関わってきました。その流れの中で、公認心理師のBルート(養成施設)としての指定申請を検討する機会がありました。


制度上、大学院を経ていない人が心理師資格を得るためには、Bルート指定の医療機関などでの実務経験が必要です。地域においてそのような人材を支え、質の高い臨床実習の機会を提供することには意義がある。そう感じて、申請に向けて準備を進めてきました。


詳細はこちらの記事に書いています。



しかし先日、厚生労働省の担当者とZoomで面談し、制度の詳細や要件について直接説明を受けた結果、今回は申請を見送ることにしました。


理由は大きく二つあります。ひとつは、Bルート指定にあたっては、単に実務の場を提供するだけではなく、「大学院に準ずる教育内容・体制」が求められるということ。具体的には、大学等との連携、定期的な研修や評価体制の整備、スーパービジョンの記録などが必要とされ、実質的には大学院教育とほとんど変わらない内容でした。医療機関で実施する際には、さまざまな工夫で対応できる部分もあるかと感じていたのですが、実質的に、大学院教育と同じことをして欲しいというのが厚労省の方針とわかり、これは、小規模な医療機関として日常業務を行いながら担うには、ハードルが非常に高いと感じました。


もうひとつは、スタッフへの負担です。心理職に限らず、実習生や研修者を受け入れることは、教育的配慮や倫理的対応も含めて、現場のスタッフに大きな責任と労力を求めます。厚労省の要望が、私が想定しているよりかなり高いということが分かった今、現在の体制では、指導的な質を保ちながら無理なく続けるのは難しいと判断しました。


また、今回検討を進める中で、私自身が「医療機関でBルートの実習を行う意義」に対して、今ひとつ明確な手応えを持てなかったことも大きかったです。ただ臨床の場を見せるだけでなく、体系的な学びを提供する覚悟が求められる。その点で、今の当院の役割はそこにはないのかもしれないと感じました。


とはいえ、心理職の育成に関わる姿勢そのものをやめるつもりはありません。やはり、現場で学べることが大きいことは揺るぎない事実と感じています。今後も大学院生の実習は真摯に受け入れていくつもりですし、資格を取得したばかりの方の初期研修の場として何か提供できないか、模索を続けていきたいと考えています。


公認心理師という資格に対する社会の期待、ニーズはこれから絶対に増えていくと確信しています。これから公認心理師を目指す方を、全力で応援したいと思っています。

精神科医のつぶやき「精神科予診の現場での工夫や注意点」 (2025/07/25)

前回の記事の続きです。


実際のところ、患者さんの話を聞くのには以下のような工夫が必要になります。


1.「地図を持ちながら、自由に歩く」スタンス

・あらかじめ「聞くべき項目リスト」は自分の中で持っておく(メモ・チェックリストなど)

・ただし、患者さんの語りにまず耳を傾ける

・話がどこに向かうか予測しつつ、核心や背景につながる部分があれば広げて聴く

話が逸れても、後で戻れば大丈夫です。最初から型にはめないことが信頼関係の構築にもつながります。


2. 「困りごと」から丁寧に引き出す

「今日はどうされましたか?」は、最初のスタートとしては無難ですが、以下のような聴き方も有効です。

・「一番困っていることは何ですか?」

・「どんなときに特につらいですか?」

・「日常生活でどんな支障がでていますか?」

自覚的な症状が薄い人でも、「生活の中で困っていること」は話しやすい場合があります。


3. 時間の流れをゆっくりたどる

・症状の話が出たら、「それはいつ頃から?」「そのとき他に何がありましたか?」と時間軸を補っていく。

・「前はどうだったか」「今と比べてどう変わったか」といった形で、エピソードを並べてもらう。


4. 話の断片をメモし、後から補完していく

・話の途中で無理に遮って確認せず、メモを取りながら話を聴く。

・あとから「さっきの○○という話ですが…」と戻って尋ねることで、本人も気持ちが落ち着いていることが多い。


5. 本人の語りに「意味」を与えずに聞く

・特に被害的・妄想的・感情的な語りのときは、解釈や矛盾の指摘をせず、「それは怖かったですね」「つらい出来事でしたね」など、まずは感情に共感する。

内容的には、とても納得できないことでも、感情に共感することは可能です。そう思い込んでいるなら、怖かっただろうな、悔しかっただろうなと、気持ちを想像して寄り添う作業は大事です。


6. 沈黙は「情報」だと捉える

・沈黙は不快なものではなく、「言葉にしづらいこと」「考えていること」の現れ。

・無理に埋めず、時には「どうしたらお話ししやすくなるか」を聞くのも手。


7. 家族や同席者からの情報を補助的に活用

・本人がうまく話せない場合、同席家族の話を先に聞いて構造化する。

・ただし、本人の前で話していいか、家族と本人に確認を取る配慮が必要。


最後に:「全部を聞こう」としない

精神科の予診では、最初から患者さんが話さない情報もたくさんあります。詳細にこだわらず、話の大まかな流れを捉え、患者さんに共感し、関係性を構築することも大事にしてもらいたいと思います。

精神科医のつぶやき「予診をとるのに必要なスキル」 (2025/07/16)

私のクリニックでは、初めてきた患者さんの予診を取るのは看護師さんの仕事です。現在看護師は2名おりますが、2人とも精神科経験が長く、予診を取るのが大変上手です。患者さんからは、よくカウンセラーと間違われております。それくらい話を聞くのも上手ですし、看護師さんなんで病気やその症状、薬についてもある程度知識を持っています。


大学病院など研修期間では、研修医や若手の医師が予診を取る担当をしていることが多いと思います。場合によっては学生が実習の一環で予診をとっていることもあると思います。しかし実際には、予診ってすごく大事な部分なんですよね。そして、精神医療のことが一通り理解できていないと、なかなか必要な情報を収集することができません。


また、予診として求められることは、情報収集です。必要な情報を集めなければならないのですが、同時に、患者さんがクリニック/病院に来て、初めて自分のことを話す体験になります。なので、予診者の対応というのは、今後の治療においてとても影響します。そういう意味でも責任重大です。


そして、患者さんはこちらの聴きたいようには話してくれず、患者さんの思うように話します。そこからどうやって必要な情報を見つけ出し、収集するのか。これはコツや経験をつかんでいくほかないと思います。ある程度、数をこなす必要があると思うのです。


予診で聞くべき情報というのは、以下のような情報になります。


【1】基本情報の正確な把握

・氏名、年齢、生年月日、性別、連絡先

・紹介元の有無と紹介状の内容(ある場合)

・生活状況(家族構成、同居者、職業、就労・就学状況)


【2】主訴と来院のきっかけ

・「どんな症状で来られましたか?」

・「初めてその症状に気づいたのはいつ頃ですか?」

・「何かきっかけや変化がありましたか?」

・「受診を勧めたのは誰か?(本人か周囲か)」

可能な限り、主観的な訴え(本人の感じ方)と客観的な事実(行動、状況)を分けること。


【3】現病歴

・症状の内容(例:不眠、意欲低下、焦燥、不安、幻聴、被害妄想など)

・症状の経過(時間軸を意識:「○月頃から」「×日前から」など)

・生活への影響(仕事・学校・家庭生活など)

・受診までに本人・家族が試みた対処


【4】既往歴と家族歴

・身体疾患歴・手術歴

・精神科の既往歴(いつ・どこで・どんな診断・治療内容)

・家族に精神疾患のある方はいるか?


【5】服薬歴と薬物・嗜好品の使用

・現在飲んでいる薬(処方薬、市販薬、サプリ含む)

・精神科の薬に対する過去の反応(効果・副作用)

・飲酒・喫煙・違法薬物使用歴


【6】生活歴・性格

・性格傾向(几帳面・心配性・外交的・内向的など)

・幼少期から現在までのライフイベント(いじめ、転校、進学、就職、転職、結婚、出産など)

・ストレス耐性や対処方法


【7】社会資源の活用状況

・障害者手帳や自立支援医療の利用有無

・福祉的支援(訪問看護、就労支援、生活保護など)


【8】自傷・自殺のリスク評価(重要)

・希死念慮の有無

・自傷行為歴、自殺未遂歴

・現在のリスク(方法・計画・衝動性など)


【9】受診へのモチベーションと治療希望

・本人の受診意欲(納得しているか、嫌々来ているか)

・治療への希望・拒否(「薬は嫌」「入院は絶対したくない」など)


これらを踏まえた上で、実際の現場での工夫や注意点を次回書こうと思います。

精神科医のつぶやき「本から得た知識のシェア|発達障がいとトラウマ」 (2025/07/16)

Kindleで購入しました。Kindleって場所取らないし、iPadminiだとかなり快適に読めます。でもやっぱり紙の本の方がいいように思うのは、昭和の人間ですかね。


発達障がいとトラウマ 理解してつながることから始める支援

amzn.asia

2,372円


読みたいと思った動機

これからはトラウマの時代になる、と言われているなか、今でも相談の多い「発達障がい」の問題と、トラウマとの関連性をしっかり把握しておきたいと思ったから。


得たい知識

理解することはもちろん、現場の診療で役に立つ、患者さんの接し方や助言、治療などについて知りたい。


発達障がいの患者さんとトラウマの関係はとても深いですが、その方だけを見るのではなくて、親の人生から見る視点を持たないと、事態の全体像が見えてきません。そして、理解できないと、共感が難しくなります。その子、その親がどのようにこれまで生きてきて、そして今の状況になっているのか。それを支援者が知り、そして知り得たことを患者さんに還元していく。それがトラウマケアとして大切なことなのかなと感じました。


トラウマケアにはトップダウンとボトムアップがあり、トップダウンは「思考」で考えて対処するやり方になります。それには、トラウマという仕組みを知り、自分の中で何が起こっているのかを知り、理性的に自分のことを理解し対処することが必要になります。


それが難しい場合は、ボトムアップの対処になります。「思考」ではなく「感覚」から、対処していく。何を「考えたのか」ではなくて、何を「感じたのか、感じているのか」を捉えていく。あるいは感覚を鍛えていく。言葉にならないその感覚を頼りに、感覚から記憶を辿り寄せていく方法です。


トラウマを抱えている人は、自分が抱えているものがそもそも「トラウマ」であるということすら認識できていないこともあります。患者さんを理解し、そして、患者さんにも自分自身のことを理解してもらう。それがトラウマケアの第一歩になります。理解することができると、その人と心理的につながることができます。心理的なつながりが、トラウマをケアしていくことになるのです。


トラウマの人を理解し、その人の生きづらさや苦労に心を寄せていく。トラウマケアって難しそうなイメージがありますが、精神科医としては普段、診療でやっていることの延長上にある過程を、丁寧にやっていくイメージなのかなと思いました。

精神科医のつぶやき「精神疾患で休職した後の社会復帰の難しさと支援の工夫|過重労働と精神障害について その6」 (2025/07/16)

これで「過重労働と精神障害について」のスライドは完成になりそうです。


精神疾患からの社会復帰が難しい理由

一見回復しても「再発しやすい病態」

・うつ病・適応障害は、症状が軽減しても脆弱性が残りやすい

・休職前と同じ負荷に戻ると、再発率が非常に高い(うつ病の再発率:50%以上)


職場ストレスが回避されないまま復職するケースが多い

・原因となった職場環境が変わっていない(上司・業務量・評価の仕方)

・本人の「性格傾向」や「仕事への向き合い方」も変わっていないことが多い


周囲の理解不足・期待とのギャップ

・上司:「もう治ったならフルパワーで働けるよね」

・本人:「期待に応えなければ」と無理をする

・その結果、再発や再休職につながる


過重労働が背景にある場合の特徴と注意点

特有の心理的影響

強い自己否定:長時間労働をしても成果が出ない自分に対する失望感

学習性無力感:「どうせまた同じように働かされる」「何も変わらない」という諦め

怒りや不信感:職場に対して「裏切られた」「助けてもらえなかった」という感情が残っている

→ これらを無視した復職は、表面上の復帰だけで中身が伴わないことになりやすい


社会復帰を支えるための3つのステップ

ステップ1:主治医・産業医による医学的判断と支援

・「治ったか」ではなく、「再発リスクを管理できる状態か」を評価

・ストレス耐性の確認:一定の生活リズム、対人ストレスの処理、疲労回復力の有無


ステップ2:リワークなどの社会的リハビリ

・病院やクリニックのリワークプログラム(復職支援デイケア)

 疲労管理、ストレス対処、時間管理、認知行動療法的視点の導入

 模擬就労・集団活動を通じて、職場復帰に向けた段階的リハビリ

・医療機関がなくても、産業医面談で業務内容のすり合わせが重要


ステップ3:職場での支援と配慮

・「段階的復職」や「短時間勤務」などの調整

・明確な支援者(復職支援担当者など)の配置

・業務の見直し:過去と同じような長時間労働にならないかを確認

・心理的安全性の確保:周囲の理解と協力


実務的な工夫とチェックポイント

本人の再発予防の視点から

・「以前と同じ働き方になっていないか?」と定期的にセルフチェック

・残業が増えすぎていないか?(月20時間超えると警戒ライン)

・上司や支援者との定期面談で「違和感」や「負担感」を表明する場をつくる


職場の体制として

勤怠管理突発的な残業や休日出勤が続いていないかをモニタリング

定期面談復職後1か月・3か月・6か月などで面談し、段階的に負荷を調整

周囲の教育同僚・上司に対して「精神疾患の回復は時間がかかる」ことを伝える

フォロー役の明確化人事・上司・産業医・EAPなど、誰がいつ何をするのか明確にする


再発リスクの高い「危ないパターン」

・「とりあえず復職日が決まったので、あとは現場で…」と丸投げ

・上司の独断で「もう戻れるだろう」と判断される

・本人が「頑張りすぎて」支援を断る or 無理に仕事を抱え込む

・職場の温度差(表向きは歓迎でも、裏では冷たい態度や過去を蒸し返される)


成功する復職支援の鍵

医療:回復より「再発予防」と「職場環境とのマッチ」を重視

本人:自己理解とセルフケアの確立(「無理しない練習」)

職場:柔軟な働き方、開かれた相談体制、「復職支援チーム」の存在

社会:医療機関と職場をつなぐコーディネーター的存在(産業医・精神保健福祉士等)


さて、これで話したい内容がスライド化できました!パワーポイントにして仕上げて、当日に備えようと思います!

精神科医のつぶやき「働く本人・家族・職場にできる予防策と声かけ|過重労働と精神障害について その5」 (2025/07/16)

10月の講演会のスライド作りの続きです。


働く本人にできる予防策

セルフモニタリングの習慣化

・自分のストレス状態を把握する工夫

 → 例:週に1回「疲れ度チェック」や「気分メモ」

 → 簡易ツール:CES-D、K6、ストレスチェック項目など

・自覚しにくい不調の前兆(睡眠・食欲・集中力)に注目

 → 「最近、朝起きられない」「夜になると不安」などがヒント


ワークライフバランスの見直し

・仕事以外の時間で「休息・回復・喜び」を得られているかを確認

・平日に「10分でも自分の時間」を確保する意識(散歩・読書・深呼吸)


相談行動を肯定的に捉える

・「相談=弱さ」ではなく、「自分を守るスキル」だと認識

・いざという時の相談先を事前にリスト化しておく

 → 産業医、保健師、上司、信頼できる人、外部窓口(EAPなど)


家族にできる予防的関わり・声かけ

「日常の変化」を察知する視点を持つ

・家族は職場とは違う視点からの異変に気づける立場

・次のような小さな変化が続くときは注意

 表情が乏しい・口数が減る

 休日に何もせず寝てばかり

 食事やお風呂が面倒そうになる


声かけのコツ(安心できる関係の中で)

NG「気のせいでしょ」→OK「最近、ちょっと元気ないみたいだけど大丈夫?」

NG「いつもと同じに見えるけど」→OK「何かあったら話してね。無理しないで」

NG「休んでばかりじゃダメ」→OK「疲れてるなら、一緒にゆっくりしようか」

→ ポイントは、評価や忠告ではなく、関心と寄り添い


一人で抱え込まない姿勢

・「家族が何とかしなければ」と思い詰めすぎない

・必要に応じて医療や職場に早めに相談・連携を促すことが大切


職場にできる予防策と日常的な対応

「予防的マネジメント」の視点をもつ

・不調が出てからの対応ではなく、不調が起きにくい職場づくりが基本

・具体策

 業務量の偏りを定期的に見直す

 勤怠データから「異変の兆候」を分析(残業急増、打刻の遅れ等)

 メンタル不調者が出た部署での振り返りミーティング(ハラスメント・過負荷の構造はないか)


信頼関係を前提とした「日常的な声かけ」

・日頃から部下・同僚に「どう?」と気軽に話しかけられる関係性をつくっておく

・雑談力・観察力は最大のメンタルヘルス資源になる

例:「今週けっこう頑張ってたよね。少し息抜きしてもいいかもよ」

  「最近忙しいみたいだけど、仕事量つらくない?」

→ ポイントは、「評価・命令口調」ではなく、観察+共感+提案


仕組みとして支援体制を整備する

・管理職研修:ラインケアの基本(声かけ、傾聴、対応ルート)

・セルフケア研修:ストレスとのつきあい方、睡眠・生活習慣の見直し

・相談先の周知

 産業医・保健師の存在を「知っている」だけでなく「利用できる」と思えることが重要

 匿名で使える外部EAPや、ハラスメント相談窓口の案内も明示


本人・家族・職場それぞれが「支え合いの輪」になる

本人:セルフケア・相談する力

家族:日常の異変に気づき、安心して話せる相手になる

職場:サインに気づく文化、相談しやすい風土、対応の仕組み   

→すべてが連携して、不調の「早期発見・早期対応」が可能に


ちょっと情報過多になって来たような気もします…全体を整えて多かったら削るようにします。

精神科医のつぶやき「どんな人が危ない? サインの見つけ方と相談のタイミング|過重労働と精神障害について その4」 (2025/07/16)

10月の講演会の資料作りです。今日は、どんな人が危ないのか、という点をまとめようと思います。


どんな人が危ない?

過労から精神不調へ至りやすい人の特徴

性格・行動傾向

真面目・几帳面:手を抜けず、常に全力で取り組む

責任感が強い:「自分がやらなければ」と抱え込む

完璧主義:小さなミスも許せず、自分を責めやすい

頼まれると断れない:「NO」と言えず業務量が増える

周囲に弱みを見せられない:「しんどい」と言えず限界まで我慢する


こうしたタイプの人ほど、過労が深刻になるまで不調を訴えない傾向がある


どんなサインが出る?

精神的不調の初期兆候

身体面

・慢性的な疲労感・倦怠感(寝ても疲れがとれない)

・頭痛、肩こり、動悸、息切れ、めまい

・食欲不振や過食

・睡眠障害(入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒)


精神面

・イライラしやすくなる

・漠然とした不安感や焦り

・意欲の低下(好きだったことに関心が持てない)

・「自分がダメだ」と感じる(自己否定)


行動面

・遅刻や欠勤が増える

・ミスや物忘れが目立つ

・会議や雑談で発言が減る

・笑わなくなる・口数が減る

・「辞めたい」「消えたい」といった発言が増える


周囲ができるサインの“気づき方”

職場で見逃されがちな変化

表情ぼんやりしている、笑わなくなった

言動口数が減った、急に攻撃的になった

業務ミスが急増、締切に間に合わない

対人関係飲み会・ランチなどの誘いを断るようになった

生活リズム朝の出勤がギリギリ、居残りが増えた/減った

→ 「あれ、ちょっと変だな?」という違和感が最初のヒントになる


相談のタイミング

いつ・どう声をかける?

タイミングの目安

・上記のサインが複数、2週間以上継続しているとき

・明らかな「異変」が見られたとき(例:突如泣き出す、無断欠勤)

・本人が「しんどい」「眠れない」と言ったとき(その一言を逃さない)


声かけのコツ(心理的安全性を保ちながら)

NG「みんな忙しいんだから我慢して」→OK「最近大変そうだけど、大丈夫?」

NG「気のせいだよ、頑張れ」→OK「よかったら少し話す時間つくろうか?」

NG「休むなんて迷惑だよ」→OK「無理せず、相談してもいいんだよ」

→ 「評価」や「忠告」ではなく、“見守っている”というスタンスで関わることが大切


どこに相談すればいい?

社内外の相談ルート

上司・同僚:日常的な気づきと声かけ。早期キャッチの第一線

産業医・保健師:労働時間・健康面での専門対応が可能

EAP(外部相談窓口):匿名相談・カウンセリングが可能

精神科・心療内科:必要があれば医療的介入へ

本人が自分で行動できないときは、職場の誰かが橋渡し役になることが重要


組織として大切なこと

・「相談しても大丈夫な文化」をつくる

 → 日頃から上司や同僚が話しかけやすい雰囲気をつくる

・「サインに気づく・対応する」スキルを職場全体で育てる

 → 管理職研修・ラインケア研修・セルフケア教育など


ちょっとずつ進めていきます。

精神科医のつぶやき「過労と精神障害(うつ病・適応障害など)との関係について|過重労働と精神障害について その3」 (2025/07/16)

10月に行う講演会の資料作りをしています。今日は、過労と精神障害との関連についてまとめようと思います。


過労が引き起こす精神障害

・うつ病

・適応障害

・不安障害・パニック障害

・睡眠障害

・心因反応・身体症状症(心身症)


どのような過労が精神障害につながるのか?

長時間労働

・時間外労働が月80時間以上 → 発症リスク大幅上昇(労災認定基準にも該当)

・睡眠不足・疲労蓄積 → 認知機能低下・気分変調・抑うつ気分へ


仕事の質的ストレス

・絶え間ない締切・マルチタスク・高い責任

・上司や同僚との人間関係ストレス

・達成感や評価の欠如


裁量の欠如・無力感

・自分で仕事量・進め方を調整できない

・「やらされ感」や「無力感」が強い環境

・心理学でいう「学習性無力感」が生じやすい


うつ病・適応障害との関係性

うつ病との関係

・セロトニンやノルアドレナリン系の神経伝達物質の不調が背景

・長期間のストレスや過労がトリガーとなり、脳のストレス応答システム(視床下部-下垂体-副腎系)を過剰に刺激

・「真面目で責任感の強い人」ほど発症リスクが高い(過労に陥りやすい性格特性)


適応障害との関係

・明確なストレス(仕事量の急増、人間関係の悪化など)に対して、6か月以内にうつ状態や不安・行動異常が生じる

・仕事の負荷が原因であることが多く、早期対応で回復が見込める

・しかし、慢性化するとうつ病へ移行するリスクあり


労災認定と司法判断の基準(現場とのつながり)

厚労省「精神障害の労災認定基準(2020年改訂)」

業務による強い心理的負荷があるかどうかを、以下の3ステップで評価

1. 業務によるストレス要因(「出来事」)の有無と強度

 例:パワハラ、長時間労働、事故体験など

2. 発病前の個人要因の有無(既往歴、性格傾向など)

3. 業務以外の出来事の影響(家庭の問題など)

→ 業務要因が主因であると認められた場合、労災認定される


過労による精神障害の実例

・事例1:営業職。新規ノルマ激増+連日22時退社、3か月後に抑うつ症状、適応障害と診断

・事例2:病院勤務の看護師。夜勤続き+人手不足による多忙。1年後にうつ病発症、休職→復職困難に


予防と対応のポイント

組織としてできること

・労働時間の把握と上限管理(36協定遵守)

・長時間労働者への産業医面談・面接指導

・パワハラ・いじめの防止(職場風土の整備)

・メンタル不調の早期発見・早期対応


個人にできるセルフケア

・十分な睡眠・休養

・頼れる相手を持つ(上司・同僚・産業医など)

・「しんどい」と口に出せる環境づくり


少しずつスライドを作っていこうと思います。

精神科医のつぶやき「まず、「過重労働」の実態についての説明|過重労働と精神障害について その2」 (2025/07/16)

10月の講演会の資料作りを進めていこうと思います。


講演のテーマは「過重労働と精神障害について」についてです。まず、「過重労働」とは何か?ということについて、法的基準と現場の実態についてお伝えしようと思っています。


法的基準からみた「過重労働」

法令上、「過重労働」という言葉そのものは明確に定義されていませんが、労働時間や健康障害のリスクとの関係で、厚生労働省や労災認定基準等によって一定の目安が設けられています。


労働時間に関する基準(労働基準法)

・原則:1日8時間・週40時間が上限(法定労働時間)

・36協定(時間外・休日労働に関する協定届)による時間外労働は、月45時間・年360時間が原則上限

臨時的な特別の事情がある場合でも、以下の上限あり(「上限規制」)

・年720時間以内

・単月100時間未満(休日労働を含む)

・2~6か月平均で80時間以内


労災認定の基準(精神障害との関係)

厚労省の「心理的負荷による精神障害の認定基準」(令和2年改訂)では、以下のような労働時間が精神障害発症のリスク要因とされています。

・発症前1か月に おおむね100時間以上の時間外労働

・発症前2~6か月間に、月平均おおむね80時間以上の時間外労働

これらの労働時間は、 「強い心理的負荷」と評価され、業務起因性が強く疑われる状態とされます。


現場の実態としての「過重労働」

法的な上限が整備されてきた一方で、実際の職場では形を変えた過重労働が存在します。


サービス残業や「持ち帰り仕事」

・タイムカード上では8時間勤務でも、実際には夜中までメール対応・資料作成をしている

・出退勤記録に現れにくい労働が増えている(テレワーク中も含む)


労働時間だけでは測れない「密度の濃さ」

・仕事の中身が高度化・複雑化(マルチタスク・短納期)

・慢性的な人員不足により、常に緊急対応に追われる

・精神的プレッシャー(例:クレーム対応、パワハラ、人間関係の悪化)


「名ばかり管理職」や「自己裁量型勤務」による盲点

・管理職で労働時間管理の対象外になり、長時間労働が常態化

・裁量労働制やフレックス制が、「労働時間管理を曖昧にする口実」となっているケースも


産業医面談の義務化:時間数と対応の目安

・時間外労働80時間未満:原則、産業医面談の義務なし(必要に応じて任意対応)

・時間外労働80時間超:本人申出があれば義務(面接指導)

・時間外労働100時間超:労災認定基準上、強い心理的負荷と評価されうる

ただし、これらの対応も、サービス残業や名ばかり管理職には対応できない現状あり


精神科医のつぶやき「未だに多い精神障害の誤解や偏見を解消していきたい|過重労働と精神障害について その1」 (2025/07/16)

10月は講演会ラッシュということを以前書きました。今のところ3件依頼が来ていて、そのうちの一つについては講演スライドの作成が終わりました。

10月は、労働衛生コンサルタントの筆記試験もある予定です。試験勉強も着々としておりますが、まだ時間の余裕のあるうちに、残り2件の講演スライドも作成してしまいたいと思います。


残り2件は、どちらも香川産業保健総合支援センターから依頼をいただいていて、就労と精神疾患についての話になります。これまでも、リワークデイケアや産業医活動を通じて、産業分野の活動にも力を入れてきましたが、労働衛生コンサルタントの試験勉強をするようになり、産業分野の仕組みがより理解できるようになって、それだけでも受験することにして良かったと思っています。


さて、二つ目の講演テーマは「過重労働と精神障害について」ということになっています。講演概要は下記の形で作成しました。


「働き方改革が進められる一方で、『過労死』や『うつ病による休職』といった問題はいまだ身近に存在しています。本講演では、精神科医の立場から、過重労働が心身に及ぼす影響について話をする予定です。

 具体的には、以下のような内容を取り上げます。

 · 「過重労働」とは何か? 法的基準と現場の実態

 · 過労と精神障害(うつ病・適応障害など)との関係

 · どんな人が危ない? サインの見つけ方と相談のタイミング

 · 働く本人・家族・職場にできる予防策と声かけ

 · 精神疾患で休職した後の社会復帰の難しさと支援の工夫

長時間労働の危険性について、医学的・制度的な視点を交えながら、一般の方にも理解しやすい形でお伝えします。『誰か』ではなく『自分や身近な人』のこととして考えるきっかけにしていただければ幸いです。」


これだけ市民権を得てきた精神疾患、メンタル不調問題ですが、未だに誤解や偏見も多いことを日々実感します。また、過重労働に対する認識も、まだまだ十分とは言えない現状があると思います。一時期、新型うつ病と言われる、苦手なことや嫌なことを回避し、好きなことばかりやっている若者のうつ病を批判するような風潮が強かった時期もありました。しかし、若い方でも、頑張りすぎて精神を消耗してうつ病になる方が圧倒的に多いです。


病気や障害に対する正しい知識を持っていただき、防げる労災は防いでいく。そして、残念ながら病気・障害になった方でも、再び社会復帰できるように社会で支えていく。そのような取り組みの一助となるような講演ができればと思っています。講演スライド、少しずつ作っていこうと思います。

精神科医のつぶやき「公認心理師Bルート指定を見送った理由と、これから考えていること|Bルート指定施設になるのは大変そうです その7」 (2025/07/25)

当院ではこれまで、大学院生の実習を継続的に受け入れ、心理職の育成に微力ながら関わってきました。その流れの中で、公認心理師のBルート(養成施設)としての指定申請を検討する機会がありました。


制度上、大学院を経ていない人が心理師資格を得るためには、Bルート指定の医療機関などでの実務経験が必要です。地域においてそのような人材を支え、質の高い臨床実習の機会を提供することには意義がある。そう感じて、申請に向けて準備を進めてきました。


詳細はこちらの記事に書いています。



しかし先日、厚生労働省の担当者とZoomで面談し、制度の詳細や要件について直接説明を受けた結果、今回は申請を見送ることにしました。


理由は大きく二つあります。ひとつは、Bルート指定にあたっては、単に実務の場を提供するだけではなく、「大学院に準ずる教育内容・体制」が求められるということ。具体的には、大学等との連携、定期的な研修や評価体制の整備、スーパービジョンの記録などが必要とされ、実質的には大学院教育とほとんど変わらない内容でした。医療機関で実施する際には、さまざまな工夫で対応できる部分もあるかと感じていたのですが、実質的に、大学院教育と同じことをして欲しいというのが厚労省の方針とわかり、これは、小規模な医療機関として日常業務を行いながら担うには、ハードルが非常に高いと感じました。


もうひとつは、スタッフへの負担です。心理職に限らず、実習生や研修者を受け入れることは、教育的配慮や倫理的対応も含めて、現場のスタッフに大きな責任と労力を求めます。厚労省の要望が、私が想定しているよりかなり高いということが分かった今、現在の体制では、指導的な質を保ちながら無理なく続けるのは難しいと判断しました。


また、今回検討を進める中で、私自身が「医療機関でBルートの実習を行う意義」に対して、今ひとつ明確な手応えを持てなかったことも大きかったです。ただ臨床の場を見せるだけでなく、体系的な学びを提供する覚悟が求められる。その点で、今の当院の役割はそこにはないのかもしれないと感じました。


とはいえ、心理職の育成に関わる姿勢そのものをやめるつもりはありません。やはり、現場で学べることが大きいことは揺るぎない事実と感じています。今後も大学院生の実習は真摯に受け入れていくつもりですし、資格を取得したばかりの方の初期研修の場として何か提供できないか、模索を続けていきたいと考えています。


公認心理師という資格に対する社会の期待、ニーズはこれから絶対に増えていくと確信しています。これから公認心理師を目指す方を、全力で応援したいと思っています。

精神科医のつぶやき「精神科予診の現場での工夫や注意点」 (2025/07/25)

前回の記事の続きです。


実際のところ、患者さんの話を聞くのには以下のような工夫が必要になります。


1.「地図を持ちながら、自由に歩く」スタンス

・あらかじめ「聞くべき項目リスト」は自分の中で持っておく(メモ・チェックリストなど)

・ただし、患者さんの語りにまず耳を傾ける

・話がどこに向かうか予測しつつ、核心や背景につながる部分があれば広げて聴く

話が逸れても、後で戻れば大丈夫です。最初から型にはめないことが信頼関係の構築にもつながります。


2. 「困りごと」から丁寧に引き出す

「今日はどうされましたか?」は、最初のスタートとしては無難ですが、以下のような聴き方も有効です。

・「一番困っていることは何ですか?」

・「どんなときに特につらいですか?」

・「日常生活でどんな支障がでていますか?」

自覚的な症状が薄い人でも、「生活の中で困っていること」は話しやすい場合があります。


3. 時間の流れをゆっくりたどる

・症状の話が出たら、「それはいつ頃から?」「そのとき他に何がありましたか?」と時間軸を補っていく。

・「前はどうだったか」「今と比べてどう変わったか」といった形で、エピソードを並べてもらう。


4. 話の断片をメモし、後から補完していく

・話の途中で無理に遮って確認せず、メモを取りながら話を聴く。

・あとから「さっきの○○という話ですが…」と戻って尋ねることで、本人も気持ちが落ち着いていることが多い。


5. 本人の語りに「意味」を与えずに聞く

・特に被害的・妄想的・感情的な語りのときは、解釈や矛盾の指摘をせず、「それは怖かったですね」「つらい出来事でしたね」など、まずは感情に共感する。

内容的には、とても納得できないことでも、感情に共感することは可能です。そう思い込んでいるなら、怖かっただろうな、悔しかっただろうなと、気持ちを想像して寄り添う作業は大事です。


6. 沈黙は「情報」だと捉える

・沈黙は不快なものではなく、「言葉にしづらいこと」「考えていること」の現れ。

・無理に埋めず、時には「どうしたらお話ししやすくなるか」を聞くのも手。


7. 家族や同席者からの情報を補助的に活用

・本人がうまく話せない場合、同席家族の話を先に聞いて構造化する。

・ただし、本人の前で話していいか、家族と本人に確認を取る配慮が必要。


最後に:「全部を聞こう」としない

精神科の予診では、最初から患者さんが話さない情報もたくさんあります。詳細にこだわらず、話の大まかな流れを捉え、患者さんに共感し、関係性を構築することも大事にしてもらいたいと思います。

精神科医のつぶやき「予診をとるのに必要なスキル」 (2025/07/16)

私のクリニックでは、初めてきた患者さんの予診を取るのは看護師さんの仕事です。現在看護師は2名おりますが、2人とも精神科経験が長く、予診を取るのが大変上手です。患者さんからは、よくカウンセラーと間違われております。それくらい話を聞くのも上手ですし、看護師さんなんで病気やその症状、薬についてもある程度知識を持っています。


大学病院など研修期間では、研修医や若手の医師が予診を取る担当をしていることが多いと思います。場合によっては学生が実習の一環で予診をとっていることもあると思います。しかし実際には、予診ってすごく大事な部分なんですよね。そして、精神医療のことが一通り理解できていないと、なかなか必要な情報を収集することができません。


また、予診として求められることは、情報収集です。必要な情報を集めなければならないのですが、同時に、患者さんがクリニック/病院に来て、初めて自分のことを話す体験になります。なので、予診者の対応というのは、今後の治療においてとても影響します。そういう意味でも責任重大です。


そして、患者さんはこちらの聴きたいようには話してくれず、患者さんの思うように話します。そこからどうやって必要な情報を見つけ出し、収集するのか。これはコツや経験をつかんでいくほかないと思います。ある程度、数をこなす必要があると思うのです。


予診で聞くべき情報というのは、以下のような情報になります。


【1】基本情報の正確な把握

・氏名、年齢、生年月日、性別、連絡先

・紹介元の有無と紹介状の内容(ある場合)

・生活状況(家族構成、同居者、職業、就労・就学状況)


【2】主訴と来院のきっかけ

・「どんな症状で来られましたか?」

・「初めてその症状に気づいたのはいつ頃ですか?」

・「何かきっかけや変化がありましたか?」

・「受診を勧めたのは誰か?(本人か周囲か)」

可能な限り、主観的な訴え(本人の感じ方)と客観的な事実(行動、状況)を分けること。


【3】現病歴

・症状の内容(例:不眠、意欲低下、焦燥、不安、幻聴、被害妄想など)

・症状の経過(時間軸を意識:「○月頃から」「×日前から」など)

・生活への影響(仕事・学校・家庭生活など)

・受診までに本人・家族が試みた対処


【4】既往歴と家族歴

・身体疾患歴・手術歴

・精神科の既往歴(いつ・どこで・どんな診断・治療内容)

・家族に精神疾患のある方はいるか?


【5】服薬歴と薬物・嗜好品の使用

・現在飲んでいる薬(処方薬、市販薬、サプリ含む)

・精神科の薬に対する過去の反応(効果・副作用)

・飲酒・喫煙・違法薬物使用歴


【6】生活歴・性格

・性格傾向(几帳面・心配性・外交的・内向的など)

・幼少期から現在までのライフイベント(いじめ、転校、進学、就職、転職、結婚、出産など)

・ストレス耐性や対処方法


【7】社会資源の活用状況

・障害者手帳や自立支援医療の利用有無

・福祉的支援(訪問看護、就労支援、生活保護など)


【8】自傷・自殺のリスク評価(重要)

・希死念慮の有無

・自傷行為歴、自殺未遂歴

・現在のリスク(方法・計画・衝動性など)


【9】受診へのモチベーションと治療希望

・本人の受診意欲(納得しているか、嫌々来ているか)

・治療への希望・拒否(「薬は嫌」「入院は絶対したくない」など)


これらを踏まえた上で、実際の現場での工夫や注意点を次回書こうと思います。

精神科医のつぶやき「本から得た知識のシェア|発達障がいとトラウマ」 (2025/07/16)

Kindleで購入しました。Kindleって場所取らないし、iPadminiだとかなり快適に読めます。でもやっぱり紙の本の方がいいように思うのは、昭和の人間ですかね。


発達障がいとトラウマ 理解してつながることから始める支援

amzn.asia

2,372円


読みたいと思った動機

これからはトラウマの時代になる、と言われているなか、今でも相談の多い「発達障がい」の問題と、トラウマとの関連性をしっかり把握しておきたいと思ったから。


得たい知識

理解することはもちろん、現場の診療で役に立つ、患者さんの接し方や助言、治療などについて知りたい。


発達障がいの患者さんとトラウマの関係はとても深いですが、その方だけを見るのではなくて、親の人生から見る視点を持たないと、事態の全体像が見えてきません。そして、理解できないと、共感が難しくなります。その子、その親がどのようにこれまで生きてきて、そして今の状況になっているのか。それを支援者が知り、そして知り得たことを患者さんに還元していく。それがトラウマケアとして大切なことなのかなと感じました。


トラウマケアにはトップダウンとボトムアップがあり、トップダウンは「思考」で考えて対処するやり方になります。それには、トラウマという仕組みを知り、自分の中で何が起こっているのかを知り、理性的に自分のことを理解し対処することが必要になります。


それが難しい場合は、ボトムアップの対処になります。「思考」ではなく「感覚」から、対処していく。何を「考えたのか」ではなくて、何を「感じたのか、感じているのか」を捉えていく。あるいは感覚を鍛えていく。言葉にならないその感覚を頼りに、感覚から記憶を辿り寄せていく方法です。


トラウマを抱えている人は、自分が抱えているものがそもそも「トラウマ」であるということすら認識できていないこともあります。患者さんを理解し、そして、患者さんにも自分自身のことを理解してもらう。それがトラウマケアの第一歩になります。理解することができると、その人と心理的につながることができます。心理的なつながりが、トラウマをケアしていくことになるのです。


トラウマの人を理解し、その人の生きづらさや苦労に心を寄せていく。トラウマケアって難しそうなイメージがありますが、精神科医としては普段、診療でやっていることの延長上にある過程を、丁寧にやっていくイメージなのかなと思いました。

精神科医のつぶやき「精神疾患で休職した後の社会復帰の難しさと支援の工夫|過重労働と精神障害について その6」 (2025/07/16)

これで「過重労働と精神障害について」のスライドは完成になりそうです。


精神疾患からの社会復帰が難しい理由

一見回復しても「再発しやすい病態」

・うつ病・適応障害は、症状が軽減しても脆弱性が残りやすい

・休職前と同じ負荷に戻ると、再発率が非常に高い(うつ病の再発率:50%以上)


職場ストレスが回避されないまま復職するケースが多い

・原因となった職場環境が変わっていない(上司・業務量・評価の仕方)

・本人の「性格傾向」や「仕事への向き合い方」も変わっていないことが多い


周囲の理解不足・期待とのギャップ

・上司:「もう治ったならフルパワーで働けるよね」

・本人:「期待に応えなければ」と無理をする

・その結果、再発や再休職につながる


過重労働が背景にある場合の特徴と注意点

特有の心理的影響

強い自己否定:長時間労働をしても成果が出ない自分に対する失望感

学習性無力感:「どうせまた同じように働かされる」「何も変わらない」という諦め

怒りや不信感:職場に対して「裏切られた」「助けてもらえなかった」という感情が残っている

→ これらを無視した復職は、表面上の復帰だけで中身が伴わないことになりやすい


社会復帰を支えるための3つのステップ

ステップ1:主治医・産業医による医学的判断と支援

・「治ったか」ではなく、「再発リスクを管理できる状態か」を評価

・ストレス耐性の確認:一定の生活リズム、対人ストレスの処理、疲労回復力の有無


ステップ2:リワークなどの社会的リハビリ

・病院やクリニックのリワークプログラム(復職支援デイケア)

 疲労管理、ストレス対処、時間管理、認知行動療法的視点の導入

 模擬就労・集団活動を通じて、職場復帰に向けた段階的リハビリ

・医療機関がなくても、産業医面談で業務内容のすり合わせが重要


ステップ3:職場での支援と配慮

・「段階的復職」や「短時間勤務」などの調整

・明確な支援者(復職支援担当者など)の配置

・業務の見直し:過去と同じような長時間労働にならないかを確認

・心理的安全性の確保:周囲の理解と協力


実務的な工夫とチェックポイント

本人の再発予防の視点から

・「以前と同じ働き方になっていないか?」と定期的にセルフチェック

・残業が増えすぎていないか?(月20時間超えると警戒ライン)

・上司や支援者との定期面談で「違和感」や「負担感」を表明する場をつくる


職場の体制として

勤怠管理突発的な残業や休日出勤が続いていないかをモニタリング

定期面談復職後1か月・3か月・6か月などで面談し、段階的に負荷を調整

周囲の教育同僚・上司に対して「精神疾患の回復は時間がかかる」ことを伝える

フォロー役の明確化人事・上司・産業医・EAPなど、誰がいつ何をするのか明確にする


再発リスクの高い「危ないパターン」

・「とりあえず復職日が決まったので、あとは現場で…」と丸投げ

・上司の独断で「もう戻れるだろう」と判断される

・本人が「頑張りすぎて」支援を断る or 無理に仕事を抱え込む

・職場の温度差(表向きは歓迎でも、裏では冷たい態度や過去を蒸し返される)


成功する復職支援の鍵

医療:回復より「再発予防」と「職場環境とのマッチ」を重視

本人:自己理解とセルフケアの確立(「無理しない練習」)

職場:柔軟な働き方、開かれた相談体制、「復職支援チーム」の存在

社会:医療機関と職場をつなぐコーディネーター的存在(産業医・精神保健福祉士等)

さて、これで話したい内容がスライド化できました!パワーポイントにして仕上げて、当日に備えようと思います!

精神科医のつぶやき「働く本人・家族・職場にできる予防策と声かけ|過重労働と精神障害について その5」 (2025/07/16)

10月の講演会のスライド作りの続きです。


働く本人にできる予防策

セルフモニタリングの習慣化

・自分のストレス状態を把握する工夫

 → 例:週に1回「疲れ度チェック」や「気分メモ」

 → 簡易ツール:CES-D、K6、ストレスチェック項目など

・自覚しにくい不調の前兆(睡眠・食欲・集中力)に注目

 → 「最近、朝起きられない」「夜になると不安」などがヒント


ワークライフバランスの見直し

・仕事以外の時間で「休息・回復・喜び」を得られているかを確認

・平日に「10分でも自分の時間」を確保する意識(散歩・読書・深呼吸)


相談行動を肯定的に捉える

・「相談=弱さ」ではなく、「自分を守るスキル」だと認識

・いざという時の相談先を事前にリスト化しておく

 → 産業医、保健師、上司、信頼できる人、外部窓口(EAPなど)


家族にできる予防的関わり・声かけ

「日常の変化」を察知する視点を持つ

・家族は職場とは違う視点からの異変に気づける立場

・次のような小さな変化が続くときは注意

 表情が乏しい・口数が減る

 休日に何もせず寝てばかり

 食事やお風呂が面倒そうになる


声かけのコツ(安心できる関係の中で)

NG「気のせいでしょ」→OK「最近、ちょっと元気ないみたいだけど大丈夫?」

NG「いつもと同じに見えるけど」→OK「何かあったら話してね。無理しないで」

NG「休んでばかりじゃダメ」→OK「疲れてるなら、一緒にゆっくりしようか」

→ ポイントは、評価や忠告ではなく、関心と寄り添い


一人で抱え込まない姿勢

・「家族が何とかしなければ」と思い詰めすぎない

・必要に応じて医療や職場に早めに相談・連携を促すことが大切


職場にできる予防策と日常的な対応

「予防的マネジメント」の視点をもつ

・不調が出てからの対応ではなく、不調が起きにくい職場づくりが基本

・具体策

 業務量の偏りを定期的に見直す

 勤怠データから「異変の兆候」を分析(残業急増、打刻の遅れ等)

 メンタル不調者が出た部署での振り返りミーティング(ハラスメント・過負荷の構造はないか)


信頼関係を前提とした「日常的な声かけ」

・日頃から部下・同僚に「どう?」と気軽に話しかけられる関係性をつくっておく

・雑談力・観察力は最大のメンタルヘルス資源になる

例:「今週けっこう頑張ってたよね。少し息抜きしてもいいかもよ」

  「最近忙しいみたいだけど、仕事量つらくない?」

→ ポイントは、「評価・命令口調」ではなく、観察+共感+提案


仕組みとして支援体制を整備する

・管理職研修:ラインケアの基本(声かけ、傾聴、対応ルート)

・セルフケア研修:ストレスとのつきあい方、睡眠・生活習慣の見直し

・相談先の周知

 産業医・保健師の存在を「知っている」だけでなく「利用できる」と思えることが重要

 匿名で使える外部EAPや、ハラスメント相談窓口の案内も明示


本人・家族・職場それぞれが「支え合いの輪」になる

本人:セルフケア・相談する力

家族:日常の異変に気づき、安心して話せる相手になる

職場:サインに気づく文化、相談しやすい風土、対応の仕組み   

→すべてが連携して、不調の「早期発見・早期対応」が可能に


ちょっと情報過多になって来たような気もします…全体を整えて多かったら削るようにします。

精神科医のつぶやき「どんな人が危ない? サインの見つけ方と相談のタイミング|過重労働と精神障害について その4」 (2025/07/16)

10月の講演会の資料作りです。今日は、どんな人が危ないのか、という点をまとめようと思います。


どんな人が危ない?

過労から精神不調へ至りやすい人の特徴

性格・行動傾向

真面目・几帳面:手を抜けず、常に全力で取り組む

責任感が強い:「自分がやらなければ」と抱え込む

完璧主義:小さなミスも許せず、自分を責めやすい

頼まれると断れない:「NO」と言えず業務量が増える

周囲に弱みを見せられない:「しんどい」と言えず限界まで我慢する


こうしたタイプの人ほど、過労が深刻になるまで不調を訴えない傾向がある


どんなサインが出る?

精神的不調の初期兆候

身体面

・慢性的な疲労感・倦怠感(寝ても疲れがとれない)

・頭痛、肩こり、動悸、息切れ、めまい

・食欲不振や過食

・睡眠障害(入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒)


精神面

・イライラしやすくなる

・漠然とした不安感や焦り

・意欲の低下(好きだったことに関心が持てない)

・「自分がダメだ」と感じる(自己否定)


行動面

・遅刻や欠勤が増える

・ミスや物忘れが目立つ

・会議や雑談で発言が減る

・笑わなくなる・口数が減る

・「辞めたい」「消えたい」といった発言が増える


周囲ができるサインの“気づき方”

職場で見逃されがちな変化

表情ぼんやりしている、笑わなくなった

言動口数が減った、急に攻撃的になった

業務ミスが急増、締切に間に合わない

対人関係飲み会・ランチなどの誘いを断るようになった

生活リズム朝の出勤がギリギリ、居残りが増えた/減った

→ 「あれ、ちょっと変だな?」という違和感が最初のヒントになる


相談のタイミング

いつ・どう声をかける?

タイミングの目安

・上記のサインが複数、2週間以上継続しているとき

・明らかな「異変」が見られたとき(例:突如泣き出す、無断欠勤)

・本人が「しんどい」「眠れない」と言ったとき(その一言を逃さない)


声かけのコツ(心理的安全性を保ちながら)

NG「みんな忙しいんだから我慢して」→OK「最近大変そうだけど、大丈夫?」

NG「気のせいだよ、頑張れ」→OK「よかったら少し話す時間つくろうか?」

NG「休むなんて迷惑だよ」→OK「無理せず、相談してもいいんだよ」

→ 「評価」や「忠告」ではなく、“見守っている”というスタンスで関わることが大切


どこに相談すればいい?

社内外の相談ルート

上司・同僚:日常的な気づきと声かけ。早期キャッチの第一線

産業医・保健師:労働時間・健康面での専門対応が可能

EAP(外部相談窓口):匿名相談・カウンセリングが可能

精神科・心療内科:必要があれば医療的介入へ

本人が自分で行動できないときは、職場の誰かが橋渡し役になることが重要


組織として大切なこと

・「相談しても大丈夫な文化」をつくる

 → 日頃から上司や同僚が話しかけやすい雰囲気をつくる

・「サインに気づく・対応する」スキルを職場全体で育てる

 → 管理職研修・ラインケア研修・セルフケア教育など


ちょっとずつ進めていきます。

精神科医のつぶやき「過労と精神障害(うつ病・適応障害など)との関係について|過重労働と精神障害について その3」 (2025/07/16)

10月に行う講演会の資料作りをしています。今日は、過労と精神障害との関連についてまとめようと思います。


過労が引き起こす精神障害

・うつ病

・適応障害

・不安障害・パニック障害

・睡眠障害

・心因反応・身体症状症(心身症)


どのような過労が精神障害につながるのか?

長時間労働

・時間外労働が月80時間以上 → 発症リスク大幅上昇(労災認定基準にも該当)

・睡眠不足・疲労蓄積 → 認知機能低下・気分変調・抑うつ気分へ


仕事の質的ストレス

・絶え間ない締切・マルチタスク・高い責任

・上司や同僚との人間関係ストレス

・達成感や評価の欠如


裁量の欠如・無力感

・自分で仕事量・進め方を調整できない

・「やらされ感」や「無力感」が強い環境

・心理学でいう「学習性無力感」が生じやすい


うつ病・適応障害との関係性

うつ病との関係

・セロトニンやノルアドレナリン系の神経伝達物質の不調が背景

・長期間のストレスや過労がトリガーとなり、脳のストレス応答システム(視床下部-下垂体-副腎系)を過剰に刺激

・「真面目で責任感の強い人」ほど発症リスクが高い(過労に陥りやすい性格特性)


適応障害との関係

・明確なストレス(仕事量の急増、人間関係の悪化など)に対して、6か月以内にうつ状態や不安・行動異常が生じる

・仕事の負荷が原因であることが多く、早期対応で回復が見込める

・しかし、慢性化するとうつ病へ移行するリスクあり


労災認定と司法判断の基準(現場とのつながり)

厚労省「精神障害の労災認定基準(2020年改訂)」

業務による強い心理的負荷があるかどうかを、以下の3ステップで評価

1. 業務によるストレス要因(「出来事」)の有無と強度

 例:パワハラ、長時間労働、事故体験など

2. 発病前の個人要因の有無(既往歴、性格傾向など)

3. 業務以外の出来事の影響(家庭の問題など)

→ 業務要因が主因であると認められた場合、労災認定される


過労による精神障害の実例

・事例1:営業職。新規ノルマ激増+連日22時退社、3か月後に抑うつ症状、適応障害と診断

・事例2:病院勤務の看護師。夜勤続き+人手不足による多忙。1年後にうつ病発症、休職→復職困難に


予防と対応のポイント

組織としてできること

・労働時間の把握と上限管理(36協定遵守)

・長時間労働者への産業医面談・面接指導

・パワハラ・いじめの防止(職場風土の整備)

・メンタル不調の早期発見・早期対応


個人にできるセルフケア

・十分な睡眠・休養

・頼れる相手を持つ(上司・同僚・産業医など)

・「しんどい」と口に出せる環境づくり


少しずつスライドを作っていこうと思います。

精神科医のつぶやき「まず、「過重労働」の実態についての説明|過重労働と精神障害について その2」 (2025/07/16)

10月の講演会の資料作りを進めていこうと思います。


講演のテーマは「過重労働と精神障害について」についてです。まず、「過重労働」とは何か?ということについて、法的基準と現場の実態についてお伝えしようと思っています。


法的基準からみた「過重労働」

法令上、「過重労働」という言葉そのものは明確に定義されていませんが、労働時間や健康障害のリスクとの関係で、厚生労働省や労災認定基準等によって一定の目安が設けられています。


労働時間に関する基準(労働基準法)

・原則:1日8時間・週40時間が上限(法定労働時間)

・36協定(時間外・休日労働に関する協定届)による時間外労働は、月45時間・年360時間が原則上限

臨時的な特別の事情がある場合でも、以下の上限あり(「上限規制」)

・年720時間以内

・単月100時間未満(休日労働を含む)

・2~6か月平均で80時間以内


労災認定の基準(精神障害との関係)

厚労省の「心理的負荷による精神障害の認定基準」(令和2年改訂)では、以下のような労働時間が精神障害発症のリスク要因とされています。

・発症前1か月に おおむね100時間以上の時間外労働

・発症前2~6か月間に、月平均おおむね80時間以上の時間外労働

これらの労働時間は、 「強い心理的負荷」と評価され、業務起因性が強く疑われる状態とされます。


現場の実態としての「過重労働」

法的な上限が整備されてきた一方で、実際の職場では形を変えた過重労働が存在します。


サービス残業や「持ち帰り仕事」

・タイムカード上では8時間勤務でも、実際には夜中までメール対応・資料作成をしている

・出退勤記録に現れにくい労働が増えている(テレワーク中も含む)


労働時間だけでは測れない「密度の濃さ」

・仕事の中身が高度化・複雑化(マルチタスク・短納期)

・慢性的な人員不足により、常に緊急対応に追われる

・精神的プレッシャー(例:クレーム対応、パワハラ、人間関係の悪化)


「名ばかり管理職」や「自己裁量型勤務」による盲点

・管理職で労働時間管理の対象外になり、長時間労働が常態化

・裁量労働制やフレックス制が、「労働時間管理を曖昧にする口実」となっているケースも


産業医面談の義務化:時間数と対応の目安

・時間外労働80時間未満:原則、産業医面談の義務なし(必要に応じて任意対応)

・時間外労働80時間超:本人申出があれば義務(面接指導)

・時間外労働100時間超:労災認定基準上、強い心理的負荷と評価されうる

ただし、これらの対応も、サービス残業や名ばかり管理職には対応できない現状あり


少しずつ、資料を作っていきます。

精神科医のつぶやき「未だに多い精神障害の誤解や偏見を解消していきたい|過重労働と精神障害について その1」 (2025/07/16)

10月は講演会ラッシュということを以前書きました。今のところ3件依頼が来ていて、そのうちの一つについては講演スライドの作成が終わりました。

10月は、労働衛生コンサルタントの筆記試験もある予定です。試験勉強も着々としておりますが、まだ時間の余裕のあるうちに、残り2件の講演スライドも作成してしまいたいと思います。


残り2件は、どちらも香川産業保健総合支援センターから依頼をいただいていて、就労と精神疾患についての話になります。これまでも、リワークデイケアや産業医活動を通じて、産業分野の活動にも力を入れてきましたが、労働衛生コンサルタントの試験勉強をするようになり、産業分野の仕組みがより理解できるようになって、それだけでも受験することにして良かったと思っています。


さて、二つ目の講演テーマは「過重労働と精神障害について」ということになっています。講演概要は下記の形で作成しました。


「働き方改革が進められる一方で、『過労死』や『うつ病による休職』といった問題はいまだ身近に存在しています。本講演では、精神科医の立場から、過重労働が心身に及ぼす影響について話をする予定です。

 具体的には、以下のような内容を取り上げます。

 · 「過重労働」とは何か? 法的基準と現場の実態

 · 過労と精神障害(うつ病・適応障害など)との関係

 · どんな人が危ない? サインの見つけ方と相談のタイミング

 · 働く本人・家族・職場にできる予防策と声かけ

 · 精神疾患で休職した後の社会復帰の難しさと支援の工夫

長時間労働の危険性について、医学的・制度的な視点を交えながら、一般の方にも理解しやすい形でお伝えします。『誰か』ではなく『自分や身近な人』のこととして考えるきっかけにしていただければ幸いです。」


これだけ市民権を得てきた精神疾患、メンタル不調問題ですが、未だに誤解や偏見も多いことを日々実感します。また、過重労働に対する認識も、まだまだ十分とは言えない現状があると思います。一時期、新型うつ病と言われる、苦手なことや嫌なことを回避し、好きなことばかりやっている若者のうつ病を批判するような風潮が強かった時期もありました。しかし、若い方でも、頑張りすぎて精神を消耗してうつ病になる方が圧倒的に多いです。


病気や障害に対する正しい知識を持っていただき、防げる労災は防いでいく。そして、残念ながら病気・障害になった方でも、再び社会復帰できるように社会で支えていく。そのような取り組みの一助となるような講演ができればと思っています。講演スライド、少しずつ作っていこうと思います。

精神科医のつぶやき「Measurement-based care(MBC)をご存知ですか?当院でも実践を始めました。」 (2025/07/16)

カテゴリー: 総合

投稿者: furujinmachi

最近、精神科医療ではMBCが流行っているというか、MBC絡みの講演会が増えてきています。

MBCとは、measurement-based careの略で、患者の症状や機能の変化を定期的に測定し、その結果に基づいて治療方針を調整するアプローチです。ある意味、内科では当たり前のことだと思うのですが、精神科でも、「感覚」や「経験」に頼るだけでなく、エビデンスに基づいた客観的なデータを活用してケアの質を向上させていこうという流れになってきます。

実際、MBCをするだけでも治療成績が向上するというデータも出ています。


具体的に、MBCは以下のように実践します。

・定期的な評価:標準化された尺度を用いて、症状を定期的に評価します。

・データに基づいた意思決定:測定結果をふまえて、薬物療法・心理療法・支援の見直しや調整を行います。

・患者との共有:結果を患者さんと共有することで、患者さんに気づきを促したり、治療へのモチベーション向上を図ります。

・臨床成績の可視化:チームで、アウトカムの改善度を分析し、医療の質向上に役立てます。


結果として、以下のようなメリットが期待できます。

・治療効果の見える化:治療が効いているかどうかを定量的に把握できる。

・早期対応が可能:改善が乏しい場合、早い段階で治療方針を見直せる。

・患者の参加意識向上:点数を見ることで自分の状態を自覚しやすくなる。

・医療の質の標準化:医師や施設ごとのばらつきを減らし、標準的な医療提供が可能になる。


色々とメリットの多いMBCを、なんとか当院でも導入していこうと検討しました。本来、症状に合わせて色々な指標を使えるといいのですが、まず一番困りごとの多いうつ状態について、MBCを取り入れていくことにしました。うつ以外の病態の方でも、最終的にうつ状態を併発し、活動が落ちてしまう方も多いので、うつ状態をチェックするのは非常に重要と思います。


これまで、当院ではうつ病のチェックにSDS(Self-Rating Depression Scale)うつ自己評価尺度というものを使用していましたが、CES-D(Center for Epidemiologic Studies Depression Scale)うつ病自己評価尺度に変更することにしました。


CES-Dには、以下のような特徴、メリットがあります。

① 感情・身体・対人など多面的な評価が可能:CES-Dは20項目が4つの下位尺度に分かれており、以下のように構造的な分析ができます。

・抑うつ気分(例:気が沈んだ)

・身体的症状(例:睡眠がとれない)

・人間関係の困難(例:人づきあいがつらい)

・陽性感情(逆転項目:例「幸せだと感じた」)

そのため、 症状のどの側面に変化があるかを具体的に把握しやすいのが特徴です。MBCにおいては、治療がどの領域に効果を及ぼしているかを視覚的に捉えるのに非常に有効です。

② 「過去1週間」の評価という期間指定がある:SDSは期間があいまいなのに対して、CES-Dは「過去1週間」と明示されており、定期的な再測定による変化の比較がしやすいです。 MBCでは「変化を見る」ことが主目的なので、測定期間の統一性は大きな利点です。

③ 多くの研究との互換性がある:CES-Dは世界的に広く使用されており、精神科領域の文献やガイドライン、うつ病の臨床研究・介入研究でも多用されています。 他施設や研究との比較や、エビデンスとの連携がしやすいという利点があります。

④ 感度が高く、軽症うつにも対応:SDSよりも感度が高く、軽症のうつや気分変調にも反応しやすい傾向があります。プライマリケアや再発予防、維持期のモニタリングにも適しています。


7月に入ってから、少しずつ患者さんに記入してもらっていますが、お話で伺うだけでなく、客観的に把握できて、困りごとの整理がしやすくなってきたように感じます。治療に役立つことを積極的に取り入れて、診療の質の向上を図っていきたいと思います。

精神科医のつぶやき「本から得た知識のシェア|カップルセラピーのための内的家族システム療法マニュアル」 (2025/07/16)

この本は内的家族システム療法についてもう少し知りたくて買いました。2024年1月の購入なので、1年半ほど寝かしていたことになりますね。しかしこれで買い溜めていた本は全て読み終わりました。心置きなくAmazonプライムセールで本を買おうと思います(確かポイントはつくはず)。


カップルセラピーのための内的家族システム療法マニュアル―トラウマを超え真のパートナーシップを創造するIFIOアプローチ

amzn.asia

3,300円


読みたいと思った動機

夫婦間の問題を取り扱う参考になると良いなと思ったのと、内的家族システム療法についてもう少し知りたかったので。


得たい知識

普段の診察でも、夫婦間、パートナーシップ間の悩みはよく聞きます。何かアドバイスする上で参考になるような知識が得られると助かります。


この本は、とても良かったです。夫婦で診察室に来られて、診察室で喧嘩になるパターンというのは実際の外来でも時々あります。夫婦でなくても、親子でもそういうこともあります。私は、そういった口論になる状況が好きではなく、いつも「困ったなあ」と感じていたのですが、そういった状況での、セラピストとしての在り方についての記述も多く、大変参考になりました。


また、トラウマを抱えている人の特徴としての、「パーツ」をどう捉え、どう対応していくかという点に関しても参考になる部分が多かったです。

実際の診療では、時間は十分には取れませんが、患者さんが情緒的に不安定になった時には、「パーツ」が活性化されているという視点をもつことは重要だと思います。そのような視点が持てると、こちらも落ち着いて対応できます。患者さんにも、自分の中で何が起きているのかを理解してもらうよう、促していくことも可能です。


夫婦やパートナー関係の人は、より深く相手と関わるようになるため、それだけ、その人の抱えているトラウマを刺激するリスクも上がるのだと思います。元々の育った家庭で受けていたトラウマや、子ども時代に経験したことから生まれたトラウマが、夫婦関係・パートナー関係の中で再現されていくのです。そのことを知らずに過ごしていると、自分が悪い、相手が悪い、といった、今の関係性の中に原因を考えるようになってしまいます。そうではなくて、過去のトラウマが刺激されてしまった結果、適切ではない対処機構が出てきてしまっているのです。


そのことを理解した上で、カップルの二人を治療するというのは、個人カウンセリングにはない視点、気遣いが必要になります。どうしても、どちらかの話に焦点が当たることがありますが、その場合に、もう一人にどのような配慮をして話を進めていくか。具体的な症例の提示もあり、それらの気遣いが非常に丁寧になされていました。


診療の場面では、患者さんを一番の主軸にして対応することになりますが、同席される家族にも配慮をしていくことや、家族が話をするときに患者さんに配慮することなど、実際の現場でも大変参考になるところがありました。

精神科医のつぶやき「ウィルス感染後にうつ状態になることがあります」 (2025/07/07)

先日、患者さんがインフルエンザに感染して、そのあとから調子が悪いとおっしゃってました。特にストレスもなかったのだけれども、ということで不思議に思っているとのこと。

ウイルス感染後で高熱が出たあとにうつ状態になることが多いのですが、案外知られてないのかなと思います。


コロナ感染後は後遺症として「ブレインフォグ」と言われる病態が一時期話題になったように思います。

ブレインフォグの主な症状は以下のようなものになります。

・集中困難・注意散漫

・記憶力の低下(短期記憶が特に)

・言葉が出にくい、会話が困難

・複雑な作業ができない

・思考の鈍さ、遅さ

これらの症状は、うつ病と類似しているものが多いです。


コロナに限らず、高熱を出す感染症にかかると、脳内にも炎症の影響が及び、特に炎症性サイトカインの増加と感染後抑うつ症状の関連が強いと言われています。自律神経の不調が強くなる人も多いです。インフルエンザ感染後にうつ状態になったり、元々抱えている精神症状が悪化したりすることもよくあります。


これらの後遺症は、しばらくすると改善することが多いです。なので、「高熱を出して脳が少し疲れたんだな」くらいで受け止めておいてもらえた方がいいかなと思います。長引くようであれば抗うつ薬の追加・増量を検討します。


まず、高熱の出るウイルス感染後には一時的にうつが悪化することがある、ということを知っていただくこと。知っておくと、原因が分かり、それだけでも安心する部分があると思います。

その上で、次のような点に気をつけていただければと思います。


・無理をしないことが第一:休息を「投資」と考え、回復のための時間と捉える

・生活リズムを整える:毎日同じ時間に起き、食事・入浴・睡眠のリズムを意識する

・活動は少しずつ段階的に:疲れたら一度止まり、「今日はここまで」と決める

・深呼吸・ストレッチ・温める習慣を:自律神経を整えるために、ゆったりした呼吸・軽い運動・入浴が効果的

・不安や落ち込みも自然な反応:「こんなふうに感じるのは自分だけではない」と知ること


コロナ感染の報告もまだ定期的には聞きますし、どんなに気をつけていても、集団生活をしている中で感染を起こしてしまうことはあります。感染後にうつ状態になり、なかなか改善しない(1ヶ月以上続く)場合には、精神科/心療内科へ相談に来ていただけると、一緒に対策を考えることもできますし、すでに通院中の方は、主治医の先生に報告するようにしていただければと思います。

精神科医のつぶやき「大切な友人を大切にするように、自分自身も大切にする」 (2025/07/07)

「どうして私はこんなにダメなんだろう」「また失敗してしまった」。ふとした瞬間、こんな言葉が頭に浮かぶことはありませんか?誰かに言われたわけでもないのに、自分自身に対して、まるで厳しい上司、厳しい親、厳しい先生のような言葉を投げかけてしまう。こうした「自分への語りかけ」は「セルフトーク」と言われ、その影響力の大きさは、種々の心理療法で指摘されています。


私たちは普段、他人に対しては気をつけて言葉を選びます。相手を傷つけないように、勇気づけられるように、やさしい言葉やいたわりの言葉を探そうとします。けれど、自分に対しては、どうでしょうか?ミスをしたとき、疲れて動けないとき、うまくいかないとき―そんな場面で、自分を責めるような言葉がすぐに出てきてしまうのは、とても多いことです。


私自身も、なかなか自分にダメ出ししてしまうクセが抜けませんでした。でも、1日の中で、自分自身に一番多く語りかけているのは、他ならぬ自分自身です。その自分が、自分の自己肯定感を下げるような言葉やイメージをずっと繰り返していると、それは自分に良い影響を与えません。そこで、自分で自分を責めるような気持ちになっていることに気づいたら、意識してそれを変えるように練習するようにしました。


調子の良いときに、自分を肯定的に捉えることは比較的容易です。でも調子の悪いときこそ、それ以上に自分をいじめないように、自分に追い打ちをかけないように、弱っている自分をいたわるように、自分自身に語りかけること。そのことは、意識していないと実際には難しいです。


でも、もしこれが友達だったら、大切な家族だったら、なんて声をかける?そんな風に考えて、弱っている自分にかける言葉を探しました。


「疲れてるんだから、休んでいいよ」「しんどい中でよく耐えてるね」「いっぱい悩んでいっぱい考えてること、知ってるよ」


そんなふうに、自分にやさしい言葉をかける練習を重ねるうちに、自分に対して肯定的に思える気持ちが増えてきました。


自分への言葉は、自分自身に向けた「栄養」のようなものです。厳しい言葉は、ストレスホルモンを増やし、体の回復力を下げてしまうことがあります。反対に、あたたかく思いやりのある言葉は、自律神経や免疫系に良い影響を与えることが、さまざまな研究でも示されています。


たとえば、今日一日の終わりに、「また何もできなかった」と自分を責める代わりに、「今日も一日、よくがんばったね」と言ってみる。

朝起きたときに、「今日も不安だ」と思う自分に、「そんなふうに感じるのも自然なことだよ」と寄り添ってみる。

そんな小さな言葉の積み重ねが、自分との関係性をあたたかくしてくれます。


自分にやさしい言葉を選ぶことは、甘やかすことではありません。

それは「今の私」に目を向け、「今できること」を大切にする姿勢です。

もし、あなたが大切な友人に声をかけるとしたら、どんな言葉を選ぶでしょうか?

その言葉を、どうか自分自身にもかけてあげてください。

精神科医のつぶやき「医師になってからの四半世紀を振り返って|香川県の精神保健のこれまでとこれから まとめ」 (2025/07/07)

これまでの原稿をまとめて一つの原稿に仕上げました。


タイトル「医師になってからの四半世紀を振り返って」

精神科の新薬が次々と開発・販売された時代

私はちょうど、2000年、ミレニアムの年に医者になりました。自分がもう四分の1世紀も医者をしていることになんだか驚きを感じます。働き出した頃は、精神科はまだ「定型抗精神病薬」「三環系抗うつ薬」が主流で、ほぼ100%院内処方でした。リスパダールが1996年、ルボックスが1999年、パキシルが2000年、セロクエル・ジプレキサが2001年の販売ですので、新規の薬がどんどん販売されたときでもありました。これまでの治療が大きくかわっていく転換期だったと思います。


2002年には、「精神分裂病」が「統合失調症」へ病名変更されました。正直、現場ですぐに何か変わったか、という実感はありませんでしたが、病名を告知し、治療についてもきちんと説明をするという流れになっていったと思います。


また、精神保健福祉法が改正され、名称も「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」に変わりました。今まで、差別や誤解、偏見の大きかった「精神科」という分野に、少しずつ変化が起きていったように思います。


それから、香川県内のことで言うと、2003年10月に、香川医科大学と香川大学が統合し、新たに香川大学として発足しました。この時私は大学院生だったのですが、母校の名前がどのようになるかが、気が気ではありませんでした。「香川医科大学」であった時は、私立大学なのか、専門学校なのかといった誤解も多く、「香川大学の医学部になる」というのが一番シンプルで良いと思っていたのですが、一部の人たちの中には新たな名前にしたいという動きもあったようで、「香川総合大学」とか「香川国際大学」とか、そのような名称になると、逆に国立大学と認識してもらいにくくなりそうに感じていました。香川県出身者としても、地元の大学が、特殊な名称になるのは抵抗があり、結果的に「香川大学」に落ち着いたことでホッとしました。私自身の学歴は、「香川医科大学卒業、香川大学医学部大学院卒業」といった形になり、大学院だけ別の大学に行ったみたいになりました。この統合により、のちに心理学科が教育学部から医学部に移ることにもなりました。


この頃は、非定型抗精神病薬(オランザピン、クエチアピンなど)や、SSRI(パロキセチン、フルボキサミンなど)が本格的に普及しだし、もう毎年のように新しい薬が出て、薬物治療が大きく様変わりしていきました。治療の選択肢が増えたのは嬉しい一方、それぞれの薬に特徴があり、使いこなす前に次の薬が出てくるような状況で、いったい目の前の患者さんにどの薬を処方すればいいのか、迷いも多かったように思います。


「大人の発達障害」の広まりと、単剤化の流れ

2005年に、発達障害者支援法が施行されました。このことは、発達障害という問題が注目されるきっかけの一つになりました。また、法律の制定に加えて、薬物治療の開発が、発達障害の領域では大きかったのではないでしょうか。これまで小児領域中心だった発達障害に、「大人の発達障害」という概念が出てきたのは、コンサータ(2007年販売)、ストラテラ(2009年販売)がそれぞれ大人にも適応拡大したこともかなり影響していると思います。薬物治療が出来ない頃は、発達障害は、本人の困りごとを聞いて根気よく対応指導していくという、児童精神科医でなければ対応できない分野でした。そして、児童精神科医は、子どもの診療で手一杯で、「大人の発達障害」まで十分フォローできない状況でした。しかし、薬物治療が出来ることで、専門医でなくとも患者さんの治療ができるようになっていきました。


2005年は、香川大学医学部精神神経医学講座の教授の交代がありました。同じ年に、私は精神保健指定医の資格を取りたくて、三光病院に異動させていただき、精神科病院での経験を重ねました。この頃、香川県立中央病院で、女性外来の担当もさせていただきました。大学病院、単科精神科病院、総合病院と働く中で、精神科といえども本当にいろんな患者さんが、本当にいろんな困りごとで来院されることを体感し、自分自身としては、将来は開業して、外来での治療に重点を置きたいと思うようになりました。


三光病院での研修を経て、再び大学病院に戻ったのが2007年でした。その前年に、自立支援医療(精神通院)制度が開始されました。これまでも通院の公費負担制度はありましたが、サービスを利用しやすくなった印象はあります。この頃、都心ではいわゆる「メンタルクリニック」が急増し、軽症・ストレス疾患の受診が増加していきました。「うつ病」の社会的認知がかなり拡大し、高松市でもクリニックを開業される先生が増えた時期だと記憶しています。


2010年頃には、抗うつ薬の多剤併用が社会問題になった状況があり、この頃から少しずつ、単剤使用の推奨、多剤使用の制限がなされてきたように思います。2014年の診療報酬改訂で、睡眠薬/抗不安薬の処方数の制限から始まり、2016年には抗うつ薬/抗精神病薬の多剤使用時の減算処置がなされるようになりました。前回の診療報酬改訂では、抗うつ薬/抗精神病薬を2種類使用した場合の説明/カルテ記載の義務化も課され、国としては今後単剤化を推奨していきたい意図が見えています。


2010年代は、自殺総合対策大綱策定の制定があり、対策を講じた結果、自殺者数がやっと減少してきた頃でもありました。しかし、2020年のコロナ感染の拡大により自殺者数が再び増加してしまったのは、皆さんご承知のことと思います。


これからはトラウマと依存症の時代

2013年には「障害者総合支援法」施行があり、長期入院患者の地域移行・退院支援が制度的に推進されていきました。


そんな時代の中、2016年に、私自身が、古新町こころの診療所を開業しました。精神科の外来治療に注力していきたいという、かねてからの夢を叶えました。来年で開業10年になりますが、開業してからの日々は本当にあっという間に過ぎていった感じです。


開業した翌年の2017年に、公認心理師制度が開始となり、国家試験が始まりました。私は当時臨床心理士を取得しており、受験資格を有していましたので、翌年2018年に受験し公認心理師の資格を取りました。しばらくは公認心理師の資格は医療現場に反映されておりませんでしたが、昨年の診療報酬改訂より心理支援加算が算定可能になり、今後ますます医療現場での活躍が期待されます。精神科医療における心理職の役割が明確化していくなかで、チーム医療の意識も徐々に強くなってきました。


そして、2020年。新型コロナウイルス感染症が拡大しました。当時は、本当にどうなるのかと思っていましたが、今振り返っても大変な数年間だったと思います。メンタル不調者は明らかに増え、自殺される方も増加。経済的な問題も大きく影響したと思います。

この頃に、オンライン診療が特例的に導入・拡大され、昨年の診療報酬改訂より通院精神療法もオンライン診療の対象となりました。個人的には、研修や学会がオンラインで受講できるようになり、自己研鑽の機会が増えたことはとてもありがたく感じています。


コロナが開けてきてからは、精神医療のアウトリーチの増加、訪問看護を利用される方が増えてきたことを感じます。また、メンタル不調の方の休職者の増加に伴い、精神科医が産業領域に関与する機会が増えてきました。


発達障害がトレンドだった2010年代を経て、2020年代以降はトラウマと依存症の時代になると言う人もいます。たしかに、発達性トラウマや複雑性PTSDの話題は、学会でもたくさんのシンポジウムで取り上げられるようになってきました。また、ゲーム依存やオンラインカジノの問題などは社会的にも大きくなっています。そのような社会情勢を踏まえると、これからの精神科診療は多様化と細分化の時代になっていくのかもしれません。発達障害、トラウマ、依存症など専門性が求められる時代になると、それらは医師だけで対応が難しくなり、診断に基づいた多職種による支援、地域連携を含めた統合的役割の中心を診療所が担う時代になっていくと思われます。


そんな中で、医師の働き方改革も進んできています。医師も含め、医療従事者が決して過労で倒れないよう、自分たちの働き方を考えつつ、これからの医療の流れに対応していきたいと考えています。医療DXやAIの飛躍も気になるところです。いったい、これからの時代に何が必要とされるか、常にアンテナを張りながら、目の前の患者さんの少しでもお役に立てるような医療の提供を目指して、これからも精進していきたいと思います。

精神科医のつぶやき「これからはトラウマと依存症の時代になると言われています|香川県の精神保健のこれまでとこれから その5」 (2025/07/07)

原稿作成の続きです。


2013年には「障害者総合支援法」施行があり、長期入院患者の地域移行・退院支援が制度的に推進されていきました。


そんな時代の中、2016年に、私自身が、古新町こころの診療所を開業しました。精神科の外来治療に注力していきたいとの思いから、かねてからの夢を叶えました。来年で開業10年になりますが、開業してからの日々は本当にあっという間に過ぎていった感じです。


開業した翌年の2017年に、公認心理師制度が開始となり、国家試験が始まりました。私は当時臨床心理士を取得しており、受験資格を有していましたので、翌年2018年に受験し資格を取りました。しばらくは資格が始まっても、医療現場に反映されておりませんでしたが、昨年の診療報酬改訂より心理支援加算が算定可能になり、今後ますます医療現場での活躍が期待できます。精神科医療における心理職の役割が明確化していくなかで、チーム医療の意識も徐々に強くなってきました。


そして、2020年。新型コロナウイルス感染症が拡大しました。当時は、本当にどうなるのかと思っていましたが、今振り返っても大変な数年間だったと思います。メンタル不調者は明らかに増え、自殺される方も増加。経済的な問題も大きく影響したと思います。

この頃に、オンライン診療が特例的に導入・拡大され、昨年の診療報酬改訂より通院精神療法もオンライン診療の対象となりました。個人的には、研修や学会がオンラインで受講できるようになり、自己研鑽の機会が増えたことはとてもありがたく感じています。


コロナが開けてきてからは、精神医療のアウトリーチの増加、訪問看護を利用される方が増えてきたことを感じます。また、メンタル不調の方の休職者の増加に伴い、精神科医が産業領域に関与する機会が増えてきました。


発達障害がトレンドだった2010年代を経て、2020年代以降はトラウマと依存症の時代になると言う人もいます。たしかに、発達性トラウマや複雑性PTSDの話題は、学会でもたくさんのシンポジウムで取り上げられるようになってきました。また、ゲーム依存やオンラインカジノの問題などは社会的にも大きくなっています。そのような社会情勢を踏まえると、これからの精神科診療は多様化と細分化の時代になっていくのかもしれません。発達障害、トラウマ、依存症など専門性が求められる時代になると、それらは医師だけで対応が難しくなり、診断に基づいた多職種による支援、地域連携を含めた統合的役割の中心を診療所が担う時代になっていくと思われます。


そんな中で、医師の働き方改革も進んできています。医師も含め、医療従事者が決して過労で倒れないよう、自分たちの働き方を考えつつ、これからの医療の流れに対応していきたいと考えています。


原稿としては、これでまとめて提出してみようと思います。なんとか書き上げられてホッとしました。

精神科医のつぶやき「「大人の発達障害」の広まりと、単剤化の流れ|香川県の精神保健のこれまでとこれから その4」 (2025/07/07)

2005年に、発達障害者支援法施行。発達障害という問題が注目されるきっかけの一つになりました。この法律ができたことよりも、薬物治療の開発が、発達障害の領域では大きかったように思います。これまで小児領域中心だった発達障害に、「大人の発達障害」という概念が出てきたのは、コンサータ(2007年販売)、ストラテラ(2009年販売)がそれぞれ大人にも適応拡大したこともかなり影響していると思います。薬物治療が出来ない頃は、発達障害は、本人の困りごとを聞いて根気よく対応指導していくという、児童精神科医でなければ対応できない分野でした。そして、児童精神科医は、子どもの診療で手一杯で、「大人の発達障害」まで十分フォローできない状況でした。しかし、薬物治療が出来ることで、専門医でなくとも患者さんの治療ができるようになってきました。

2005年は、香川大学医学部精神神経医学講座の教授の交代がありました。同じ年に、私は精神保健指定医の資格を取りたくて、三光病院に異動させていただき、精神科病院での経験を重ねました。この頃、香川県立中央病院で、女性外来の担当もさせていただきました。大学病院、単科精神科病院、総合病院と働く中で、精神科といえども本当にいろんな患者さんが、本当にいろんな困りごとで来院されることを体感し、自分自身としては、将来は開業して、外来での治療に重点を置きたいと思うようになりました。

三光病院での研修を経て、再び大学病院に戻ったのが2007年でした。その前年に、自立支援医療(精神通院)制度が開始されました。これまでも通院の公費負担制度はありましたが、サービスを利用しやすくなった印象はあります。この頃、都心ではいわゆる「メンタルクリニック」が急増し、軽症・ストレス疾患の受診が増加していきました。「うつ病」の社会的認知がかなり拡大し、高松市でもクリニックを開業される先生が増えた時期だと記憶しています。

2010年頃には、抗うつ薬の多剤併用が社会問題になった状況があり、この頃から少しずつ、単剤使用の推奨、多剤使用の制限がなされてきたように思います。2014年の診療報酬改訂で、睡眠薬/抗不安薬の処方数の制限から始まり、2016年には抗うつ薬/抗精神病薬の多剤使用時の減算処置がなされるようになりました。前回の診療報酬改訂では、抗うつ薬/抗精神病薬を2種類使用した場合の説明/カルテ記載の義務化も課され、国としては今後単剤化を推奨していきたい意図が見えています。

2010年代は、自殺総合対策大綱策定の制定があり、対策を講じた結果、自殺者数がやっと減少してきたところで、2020年のコロナ感染の拡大により自殺者数が再び増加してしまったのは、皆さんご承知のことと思います。

もう少し続きます。

精神科医のつぶやき「2000年以降は精神科の新薬が次々と販売された時代でした|香川県の精神保健のこれまでとこれから その3」 (2025/07/07)

原稿を書く話の続きです。


私はちょうど、2000年、ミレニアムの年に医者になりました。自分がもう四分の1世紀も医者をしていることになんだか驚きを感じます。働き出した頃は、精神科はまだ「精神分裂病」や「定型抗精神病薬」が主流で、ほぼ100%院内処方でした。リスパダールが1996年、ルボックスが1999年、パキシルが2000年、セロクエル・ジプレキサが2001年の販売ですので、新規の薬がどんどん販売されたときでもありました。これまでの治療が大きくかわっていく転換期だったと思います。


2002年には、「精神分裂病」から「統合失調症」へ病名変更されました。正直、現場ですぐに何か変わったか、という実感はありませんでしたが、病名を告知し、治療についてもきちんと説明をするという流れにはなっていったと思います。

また、精神保健福祉法が改正され、名称も「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」に変わりました。今まで、差別や誤解、偏見の大きかった「精神科」という分野に、少しずつ変化が起きていったように思います。


それから、香川県内のことで言うと、2003年10月に、香川医科大学と香川大学が統合し、新たに香川大学として発足しました。この時私は大学院生だったのですが、母校の名前がどのようになるかが、気が気ではありませんでした。「香川医科大学」であった時は、私立大学なのか、専門学校なのかといった誤解も多く、「香川大学の医学部になる」というのが一番シンプルで良いと思っていたのですが、一部の人たちの中には新たな名前にしたいという動きもあったようで、「香川総合大学」とか「香川国際大学」とか、そのような名称になると、逆に国立大学と認識してもらいにくくなりそうに感じていました。香川県出身者としても、地元の大学が、変わった名称になるのは抵抗があり、結果的に「香川大学」に落ち着いたことでホッとしました。私自身の学歴は、「香川医科大学卒業、香川大学医学部大学院卒業」といった形になり、大学院だけ別の大学に行ったみたいになりました。この統合により、のちに心理学科が教育学部から医学部に移ることにもなりました。


この頃は、非定型抗精神病薬(オランザピン、クエチアピンなど)や、SSRI(パロキセチン、フルボキサミンなど)が本格的に普及しだし、もう毎年のように新しい薬が出て、薬物治療が大きく様変わりしていきました。治療の選択肢が増えたのは嬉しい一方、それぞれの薬に特徴があり、使いこなす前に次の薬が出てくるような状況で、いったい目の前の患者さんにどの薬を処方すればいいのか、迷いも多かったように思います。


少しずつ書きます。

精神科医のつぶやき「私が医者になってから今日までの時系列|香川県の精神保健のこれまでとこれから その2」 (2025/06/30)

昨日、記念すべき100号になる香川県精神保健福祉協会の機関誌「香川精神保健」に原稿を書くことになった件について書きました。


私が医者になったのが2000年です。そのあと精神医療界で何があったか、それから私自身に何が起きたか時系列で並べてみました。

2000年
精神科はまだ「精神分裂病」や「定型抗精神病薬」が主流。
院内処方が多く、薬局との連携も限定的。

2002年
「精神分裂病」→「統合失調症」へ病名変更(偏見緩和と早期介入促進)。
精神保健福祉法が改正され、名称も「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」に。
精神医療における「説明と同意」「権利擁護」への関心が高まり始める。

2003年10月
香川医科大学と香川大学が統合し、新たに香川大学として発足。

2003年〜2004年
非定型抗精神病薬(オランザピン、クエチアピンなど)の使用が広がる。
抗うつ薬としてSSRIが本格的に普及(パロキセチン、フルボキサミンなど)。

2024年12月
私自身が大学院卒業。

2005年
発達障害者支援法施行。小児領域中心だった発達障害が精神科外来でも注目される。
医療観察法施行。重大事件を起こした精神障害者の治療と社会復帰の枠組み整備。

2005年4月〜7月
香川大学医学部精神神経医学講座の教授の交代。

2025年8月
私自身が、大学から転勤して精神科病院勤務。

2006年
自立支援医療(精神通院)制度開始:自己負担1割、公費負担の仕組みが一元化。
精神科外来通院の継続性・アクセスが大きく改善。
「障害者自立支援法」施行。福祉サービスの利用が制度的に整備。

2007年4月
私自身が、香川大学医学部附属病院勤務に戻る

2007年〜2009年
メンタルクリニックが都市部で急増。軽症・ストレス疾患の受診が増加。
「うつ病は心の風邪」から「うつ病は誰でもなる」へと、社会的認知が広がる。

2010年頃
抗うつ薬の多剤併用が社会問題に(「ポリファーマシー」への反省)。
自殺総合対策大綱策定(2010年)→自殺者数が減少。

2013年〜2014年
「障害者総合支援法」施行(2013年)。
長期入院患者の地域移行・退院支援が制度的に推進される。

2016年
私自身が、古新町こころの診療所開業。

2017年
公認心理師制度開始(第1回国家試験)。
精神科医療における心理職の役割が明確化、チーム医療の強化。

2020年
新型コロナウイルス感染症拡大
うつ、不安、孤立などのメンタルヘルス不調が社会全体で増加。
オンライン診療が特例的に導入・拡大。

2023年〜2024年
精神科病床の縮小方針が明確化。社会的入院の解消と地域支援へシフト。
精神医療のアウトリーチ(訪問看護、ACT)の活発化。

2025年
精神科診療は多様化と細分化へ:発達障害、依存症など専門性が求められる時代。
新規抗うつ薬、非定型抗精神病薬が主流となり、個別化・副作用マネジメントが重要課題に。
精神科医は薬物療法だけでなく、診断・支援・地域連携を含めた統合的役割を担うように。

2000年以降の精神科は、「偏見からの脱却」「地域へ」「多職種・多角的支援へ」という大きな潮流の中にあったと言えそうです。ここまで必死に働いてきましたが、社会的にも大きな変革の中で働いてきたんだな、と感じます。これらをまとめて記事にしていきたいと

精神科医のつぶやき「機関誌の原稿作成をしていきます|香川県の精神保健のこれまでとこれから その1」 (2025/06/30)

香川県には香川県精神保健福祉協会という機関があり、私の所属する古新町こころの診療所もその協会員になっています。そしてその中でも私は広報委員になっています。広報委員は毎年2回発行される機関誌「香川精神保健」の内容について相談し、原稿の依頼をしたりといった業務を担当しています。委員は数名いて、持ち回りで機関誌の主担当者になるんですが、今回は私が主担当の回です。そしてなんと、今回は、機関誌が第100号になるという記念号です。


なので、いつもよりちょっと豪華版にして、各病院/診療所の理事長・院長先生に、「香川県の精神保健のこれまでとこれから」という内容で、思いの丈を執筆いただく、という企画にすることが決定しました。


これから、各病院/診療所の先生に執筆の可否をお伺いし、書いていただける先生からは原稿をいただいて、内容を査読し、校正する作業に入っていきます。事務手続きは事務員さんがテキパキとして下さるので、私の仕事は査読校正の部分と、あと私自身も診療所の理事長ですので、自分が記事を書かなければなりません。


前半でこれまでを振り返り、後半でこれからの話を書くのですが、とはいえ香川県精神保健の重鎮達の中で考えると私なんかは若手も若手なんで、これまでを多く語るのははばかられる感じですね。これまでよりこれからにウエイトを置いて書くようにしてもいいのかなと思ったり。


私は香川県以外で働いたことがないので、香川県の特徴が何かと言われると難しいところもあります。ただ、自分がこれまでに働いてきて感じたことや思ったことのうち、この地域ならではと思われることに関しては積極的に取り上げてもいいのかなと思います。県民性だったり、そういうところで感じることがあればそれも書いてもいいのかもしれません。これからの展望に関しても、この地域ならではの問題点やそこから考えられる今後の対策などの話が出来たらいいようにも思います。


まずは、私が医者になってから、これまでの医療界での変化、特に精神科を中心とした変革点と、私自身の勤務先の変更、就労環境の変化などを時系列にして、それを元に感じたことや考えたことを書きたいと思います。その後に、今後の展望として、社会全般的に見た心配している点や期待している点、自分自身・診療所として頑張っていこうと考えている点などを書きたいと思っています。


出来事の時系列はchatGPTが助けてくれるので助かりますね。あとはそれを手がかりに、自分の記憶を思い出して書いてみようと思います。

精神科医のつぶやき「本から得た知識のシェア|対人関係療法でなおすトラウマ・PTSD」 (2025/06/30)

この本も再読なのですが、とにかく昨今のトラウマ対応の重要性を踏まえ復習しようと思いました。


対人関係療法でなおす トラウマ・PTSD:問題と障害の正しい理解から対処法、接し方のポイントまで

amzn.asia

1,650円


読みたいと思った動機

まず、トラウマ・PTSDについてきちんと知識を持ち、正しく対処できるようになりたいということ。このシリーズは、何をするべきかがはっきり提示されているので、とても参考になります。


得たい知識

トラウマ・PTSDに対する正しい知識。そして正しい対応、治療法。

忙しい臨床の中でも使えそうなものがあればそれも知りたい。


対人関係療法でトラウマケアをする最大の特徴は、他のトラウマケアと違って、トラウマそのものにはあまりアプローチしない、という点だと思います。トラウマを思い出したり、トラウマに対する処理を何かする、ということは原則しません。トラウマを受けた結果として、今何が起こっているのかを理解し、周囲の人にも理解してもらうことを一番重視しています。そして、本人が少しでも安心していられるように、どう対処したらいいのか、それを話し合って考えていくというのが治療になっていくと言えると思います。


対人関係療法全般で言えることだと思うのですが、心理教育をけっこうしっかりやるんですよね、そして本人や周囲が困っていることが、本人の「性格」なのか、病気の「症状」なのかをきっちり分けていく、という作業を丁寧にやります。きちんと見ると、困りごとの多くは「性格」ではなく「症状」だということが分かります。


トラウマ反応で多いのは、解離と過剰反応です。解離すると、本来感じるべき感情を感じずに、記憶すら曖昧になってしまいます。これは、辛かった出来事を乗り切るために本能的に脳が対処していることで、本人は何も悪くありません。解離をよく起こす人は、感情を感じにくくすることでストレスを乗り切ろうとしていて、大きなトラウマ体験の時にはそれがもちろん有効な対処法なのですが、平時の時に解離ばかりしているとおかしなことになってきます。楽しみや喜びなどポジティブな感情も感じられなくなったり、日常のことをあまり覚えていなくて、生活の支障が出たりします。その場合には、解離したときに、本当は何を感じていたのかを考える練習をしていく必要が出てきます。治療者の方から、「こういうときは腹が立ったりすることが多いですね」「そういうときには悲しくなるのが一般的です」といった提案をして、本人が自分の感情に気づけるようサポートすることもあります。


過剰反応の人の場合は、何か自分が「危険」と感じる出来事に遭遇すると、すごく攻撃的になったりします。自分へ攻撃性が向いて自傷行為になることもありますし、周りに攻撃性が向いて暴言、暴力という行為に出ることもあります。そのときに、周りの人が「攻撃された」と受け止めると、喧嘩になってさらなる二次トラウマになることがあります。周りの人が、「ああ、この人は今攻撃されたと感じて、ひたすら自分を守ろうとめちゃくちゃに反撃してきているんだな」と、冷静に捉える練習をすることが大事になってきます。このような対応のコツが症例を通して書かれていて、トラウマの人にどう接すればいいのか、すごくイメージしやすくなっています。


トラウマ体験に直接アプローチしない治療法として、周囲の人の関わりとしてもとても参考になる図書でした。

精神科医のつぶやき「マインドフルネスの3つの錨|内的体験に意識を向けることで、「今、ここ」を感じる」 (2025/06/30)

マインドフルネスについては、リワークデイケアの記事でも少し触れました。



先日、患者さんがマインドフルネスの研修会に参加してとても良かったと感想を話されていました。ただ、そこで教えてもらったマインドフルネスが、呼吸のマインドフルネスで、1日3分から5分ほど、じっと座って呼吸に集中し、雑念が湧いたらそっと横に置くといった方法でした。王道のマインドフルネスと思います。しかし、慣れてないとこの3分から5分ほど、ただ呼吸をして過ごすというのはけっこう大変だったりします。


この王道のマインドフルネスを日々やって見るのはとても価値があると思います。本当に、ただ呼吸に意識を向けるだけなのですが、その時間を3分程度もつことで、日常の認識が色々とかわってくると思います。


しかし、いわゆる王道のマインドフルネスをしないと、マインドフルネス体験が出来ないかと言われたら、そうではないと思います。マインドフルネスの技法は、日常のいろんな場面で実戦可能であると考えています。


マインドフルネスには3つの錨があると言われています。音、呼吸、身体感覚です。これらに意識を向けることで、日常の中でマインドフルネスを実践していけると思います。


マインドフルネスの目的の一つは、「今、ここ」に自分の意識を戻すことにあります。私たちの気持ちがしんどくなっているときは、意識が過去か未来に飛んでいることが多いのです。過去の辛かったことや嫌だったことを思いだしている、あるいは未来の不安や心配で心がいっぱいになっている、そのようなときに、私たちの気持ちはしんどくなります。ちなみに、未来の不安や心配も、過去の体験やこれまで見聞きしたことから派生していることがほとんどで、未来のことを考えて苦しくなっているときも、過去にとらわれているとも言えます。


そこで、過去や未来に飛んでいる思考を、「今、ここ」に戻すことで、心の平和を取り戻していくのです。「今、ここ」自体には、脅威も敵もないことがほとんどなのです。「今、ここ」のフラットな状態に自分を戻していくのに、3つの錨が役に立ちます。


まず、「音」ですが、これは、今聞こえてくる音に意識を向けることです。「目」に見えるもの(たとえば視界の景色や物体)は、自分で視線を動かしたり、目を閉じたりすることである程度コントロールできます。しかし、音は環境の中で自然に「やってくるもの」であり、避けたり止めたりしづらい刺激です。 コントロールしづらいものに対して、評価せずただ気づくという練習が、マインドフルネスの体験になると言えます。


また、音は常に「現在」にしか存在しません。過去の音も未来の音も実際には耳に届かず、今この瞬間の音だけが聞こえます。そのため、「今ここ」の体験に注意を向けるマインドフルネスの目的に適しています。


それから、音は目よりも評価や解釈が入りにくいとも言えます。視覚情報は瞬時に「あれは〇〇だ」「これは好き/嫌い」などの判断が起きやすいのに対し、音は「ただの音」としてとらえやすく、評価やストーリーが入りにくいため、 ただ観察するという態度を育てやすくなります。


多くのマインドフルネス実践では目を閉じたり、半眼にして視覚刺激を減らします。そのため、目を閉じて視覚情報を遮断することで、内的体験に意識が向きやすくなります。


同じことが、呼吸と身体感覚でも言えます。日常生活でマインドフルネスを体験したいならば、「音」に意識を向けて、今聞こえている音を感じること、「呼吸」に意識を向けて、今自分が息を吸って吐いていることを感じること、「身体感覚」に意識を向けて、「身体」が今何を感じているかを感じること、ほんの数十秒でもそのような時間をもつことで、「今、ここ」を意識できる練習になるのではないかと思います。

精神科医のつぶやき「本から得た知識のシェア|USPT入門 解離性障害の新しい治療法」 (2025/06/30)

解離性障害という病気は、なかなかお薬だけでは改善せず、これまでは精神分析療法のような、強力な精神療法が必要なイメージでした。ところが新しい治療法が試みられていると聞き、図書を購入。購入日は2020年になってました。またもや寝かせ過ぎ。でも貯めていた本を読み進めていけているので、よしとしてます。


USPT入門 解離性障害の新しい治療法 -タッピングによる潜在意識下人格の統合-

amzn.asia

1,980円


読みたいと思った動機

自分が苦手と思っていても、そんなことは患者さんには関係ありません。トラウマを抱える人が増えている中で、解離性障害に困っている人も確実に増えています。新しい治療法を身につけて、対応できるようにしたいと思いました。


得たい知識

ここで紹介されている治療法が、日々の臨床で実践できそうなのか?あるいはうちのスタッフに手伝ってもらってでも実施可能かどうかが知りたい。


この本は薄くて読みやすく、最後は症例も提示されてイメージしやすかったのですが、かなり思い切った内容もあり、同業者として、よくここまで開示されたな、というのが正直な感想です。


でも、どのような批判や非難を受けても、有効な治療を生み出し、そしてそれを広め、困っている患者さんを助けたいという、著者の熱い気持ちを感じました。同業者として頭が下がる思いです。


難しい解離性障害の治療を、できるだけ簡易に行いたいという意図で作られた治療法でしたが、それでも時間を取られるのは事実で、一般診療の合間で実施するのは難しそうであり、また独特の技法のため、エッセンスを日々の臨床に活かすというのは少し難しいように感じました。


ただ、著者の先生が今年の日本精神神経学会学術総会でシンポジウムもされているようでしたので、そちらも視聴して(最近は学術総会もオンデマンド視聴が出来て、地方在住者にはめちゃくちゃありがたいです)、知識は得ていきたいと思います。新しい治療法がどんどん開発され、当院でも提供可能なものが出てくることを期待し、常に知識のブラッシュアップは続けていきたいと思います。

精神科医のつぶやき「紹介状をお願いする意図|情報を得たいというだけではありません。」 (2025/06/30)

すでにどこかの精神科/心療内科に通院中の方が、転院を希望して来られることがあります。その場合は、紹介状をいただくようお願いしています。

転居など妥当な理由で転院する場合はスムーズに紹介状をいただけるのですが、転院先を変更したい場合には、紹介状をいただくのにハードルが高い場合がありますね。患者さんから難色を示されることもあります。これもよく分かります。何かしら、別の病院にかわりたいと思ったときに、そのことを主治医に伝え、紹介状をいただくというのは、お願いしづらくて当然と思います。


しかし、それでも紹介状をいただきたいんですよね。


紹介状をいただきたい理由は、一つには情報を得たいということがあります。

これまでせっかく治療を受けてこられて、それが一からやり直しになるのはあまりにも勿体ない場合があります。特に知りたいのは以下のような情報ですね。

①前の主治医の先生のみたて

②薬物治療の経緯

③手帳や年金など公的サービスの利用状況

薬物治療はお薬手帳があれば直近のことは分かりますが、紹介状をお願いすると、今までどんな薬を試して有効だったか、無効だったか、副作用が出た薬があったかなどさらに詳細な情報がいただける場合があり、大変助かります。公的サービスについても、患者さんが初診の時に話し忘れており、更新直前になって申し出があって非常に慌てることもあります。


あとは、転院するということを前の主治医の先生に知っていただくという意図もあります。


転院は患者さんの自由ではありますが、しばらく通院していた患者さんが来なくなったときに、どうしたのかな?と考えることがあります。転院したなら、転院したと知っておきたいと思うんですね。


また、主治医の先生との行き違いで転院を希望されるときに、転院したいことを話し合うことで、誤解が解け再度通院を継続できる場合もあると思います。精神科/心療内科の治療は、どうしても長くなってしまうことがあります。その病院/クリニックが悪くて治らないのではなく、病気の性質上仕方ないこともあり、よくならないからといって転院することが、必ずしもいいとは限らないこともあるのです。


なので、転院したいということを主治医の先生にお伝えしてから、転院してきていただきたいなと思ってます。ただ、お願いしても紹介状を作成してもらえなかったという場合がたまにあり、その場合は紹介状なしで対応することにして、どのような事情なのか確認させてもらっています。お話を聞くとやむを得ないと納得できることもあったりしますので。なのでケースバイケースですが、可能な限りはお願いするというスタンスでこれからも行きたいと思います。

精神科医のつぶやき「本から得た知識のシェア|不登校支援の手引き」 (2025/06/30)

これもしばらく寝かせていた本です。だいぶ貯めていた本を読み進められています。とにかく不登校の相談が増え、なんとか対応したいと思い購入しました。これも前回の本と同じで2021年の購入です。この頃に読みたいと思って何冊か買って、そのまま本棚で眠っていた本たちですね。発掘できただけよしとしましょう。


不登校支援の手引き―児童精神科の現場から

amzn.asia

3,080円


読みたいと思った動機

不登校の患者さんに、もっと役に立てるようになりたいと思ったから。


得たい知識

不登校の診たて、支援の中でも、医療機関としてできることは何か知りたい。また、今相談に来られている患者さんに役に立つ知識が得たい。


この本は、正直、とても良かったです。不登校の方を対応する医療機関の人はすごく勉強になると思います。早く読めば良かったと悔やむレベル。


まず、不登校の長期経過について。不登校を経験した子どものうち、7〜8割は、成人後の社会適応が良好だという統計結果が紹介されています。これってすごく大事な知識だと思うんですね。お子さんが不登校になって、親は、子ども達がそのまま引きこもりになってしまうことを一番心配されていると思うんです。でも実際そんなことはなくて、そのまま引きこもりになる子の方が少ないという事実があるということです。この数字は当院で診させてもらっている子ども達の状況ともほぼ一致していると思います。もちろん、中には残念ながら重篤な精神疾患を抱え、社会復帰が難しくなる子もいます。それは、発熱で内科に行ったときに、単に風邪引きで数日で回復する子どももいれば、もっと重症な病気の始まりが発熱だった場合もあると思うんですね。ただ、思ったよりもみんな社会復帰している、という事実は知っていただきたい。


それと、診療担当する医療グループは、子どもの評価、学校環境の評価、家庭環境の評価という視点をもつ必要があります。これは子どもを診る上では、必須の視点ですね。どれか一つだけが原因ということはありませんが、どのような状況で、どこのウエイトが重いか、そしてどこの部分からが介入しやすいか。そのあたりを評価していく必要があると思います。


それから、再登校の大変さについては、もっとしっかり認知してもらえた方がよさそうです。不登校の予後は良いとは言え、いろんな理由で学校に行けなくなった子ども達が、再び学校に行くようになるのは思ったより大変だという認識も大事です。そして、「支援の目標は再登校ではない」ということも、共通認識としてもっておく必要があると思うんですね。支援の最終目標は社会復帰であって、不登校になった学校に戻ることではない。いろんなルートで大人になっても良いという視点は大事です。


とはいえ、再登校にせよ社会復帰にせよ、不登校ないしは引きこもりの状態から徐々にステップアップする必要はあります。支援とは、そのステップアップを支えることでもあり、まず最初の段階を試して、「これでは物足りないかな」位になったら次のステップに進む。子どもが新しいステージに慣れ、次にステップアップするまでのエネルギーが溜まるのには、大人が思うよりも時間がかかることを認識し、焦らさないことが大事になります。


不登校支援で大事なことをたくさん書いて下さっていました。

精神科医のつぶやき「当院は「協働」を推進しています|医師一人で出来ることは限られています」 (2025/06/30)

先日、というかだいぶ前に、諸外国の状況について書きました。



日本は諸外国と比べ、とにかく1日に診る患者さんの数が多いということ。これだけは医療制度を改革していただかないことにはなんともならないと思っています。ただ、制度はすぐには変わりません。今の制度の中で出来る工夫を色々と考えていく必要があります。


色々と考えた末、当院ではいろんなスタッフと「協働」していくことを推進してきました。現在の医療制度では、どうしても「医師」の権限が強く、「医師」にしか出来ないことがたくさんあります。なので、その部分は医師がやっていくしかないのです。


しかし、その制度上の問題に限らず、精神科/心療内科の医者は、患者さんを抱え込む傾向があるように思います。主治医にしか、その患者さんのことが分からない、という状況になっていることがけっこうあるように思うんですね。


私自身の経験で言うと、大学病院で勤務していたときに、外来で担当していた患者さんが入院されることがあったんですね。そうすると、看護師さんが患者さんのケアに入るようになります。そして、その患者さんが退院してまた通院をするようになるんですが、病棟に行ったときに、「あの患者さん、今こんな感じなのよ」と話をしたら、「お元気そうで良かったです」とか「ご家族とはうまくいってるんでしょうか?」とか、そういう話になって。それが、自分のメンタルヘルスの上ですごく大事で、誰か分かってくれる人がいて、相談できたり経過を報告できたりすると、それだけでもずいぶんとホッとするんですね。患者さんの話って、誰にでも出来ることではないです。医療機関は、秘密保持義務がありますから、患者さんの話は外では話せません。安心して相談したり話したり出来る相手って本当に少ないんですよ。ほぼ、同じ職場の人間しかいないと思います。そして、その患者さんについて、よく知ってくれている人がいると、なお相談しやすい。


そんな経験から、開業したときに、患者さんのことを医者しか知らないという状況はできるだけ作らないようにしよう、と決めました。心理師やソーシャルワーカーに面談してもらったり、看護師に事前の聞き取りに行ってもらったり、毎日最初に来院患者さんに関する申し送りをしたりして、情報共有するようにして、私以外にも誰かはこの患者さんのことを詳しく把握している、という状態にしました。そうすることで、患者さんも医者にしか相談できないのではなくて、他のスタッフに相談することも出来ます。私もスタッフも、患者さんを抱え込むのではなくて、みんなに相談して治療に当たれます。


あとは、業務効率の観点もあります。他のスタッフに情報収集を助けてもらうことで、私は困りごとの把握と、お薬の調整や対策を考えることに注力できます。できるだけたくさんの患者さんの相談に対応するために、役割分担して働くスタイルというのはとても大事になってくると思います。他の科ではすでにされている業務分担、多職種による協働については、精神科にも徐々に浸透してきたように思います。医師一人で出来ることは限られています。これからもスタッフに助けてもらいながら、診療を続けていきたいと思います。

精神科医のつぶやき「本から得た知識のシェア|子どものための精神医学」 (2025/06/30)

少し前に購入し、しばらく置いてあった本です。Amazonで確認したら、2021年に購入してました。寝かせすぎです。反省します。

中井久夫先生が推薦しているので惹かれて購入しました。


子どものための精神医学

amzn.asia

2,750円


読みたいと思った動機

思春期患者さんの診察に積極的に取り組んでいるところではあるのだけれども、いわゆる児童精神科医としての知見をきちんと知りたいと思ったから。


得たい知識

子どもを診る上で、参考になることや、気をつけること、子どもの精神医学の本質的なところが知りたい。


私は中学生以上は診察させてもらっていますが、大人(18歳以上)しか診ない診療所も多く、児童精神医学というのは精神科の中でも独特の分野、専門性の高い分野であると認識されています。


私は摂食障害を診るようになったため、摂食障害の好発年齢である中学生・高校生を見る機会が増え、また大人の発達障害を診るようになったため、子どもの発達障害の理解も深まりました。普通の「児童精神科医」とは、専攻のルートが異なる感じです。


一般精神科医にとっての、子どもを診る難しさが、この本を読むと納得できます。子どもを診るためには、子ども本人を診るだけではダメで、学校、家庭、社会、いろんなところをみる視点が必要になります。「医学」だけでなく「教育」「養育」の視点が重なってきます。


そして、その子どもたちを「診断」するということ。これはもう「困難」というより「無理」といえるものになってくる。この図書では「神の領域」とまで書かれてました。私も、思春期の方の診断て本当に難しいと思っていましたが、医学の視点だけでなく教育養育社会が重なって、本人の困りごとになっているとしたら、それを分類し病名をつけることにこだわるよりも、困りごとを整理し個別対応していくのが現実的になると思います。


この本は、内容の多くが発達障害、特に自閉症グループに関することが多いです。それだけ、児童精神医学の中での、自閉症スペクトラムと言われる領域の子どもたちとその親をどう支援していくか、がとても大事なテーマなのだろうと思います。そしてそれらに併発する不安、うつにめぐる問題。発達トラウマと言われる問題。また、子どもの問題だけではなく、「育つ側のむずかしさ」を述べたのちに「育てる側のむずかしさ」として、家族の問題や、「子育て一般の問題」を上げています。社会の変遷の中で、子育て環境や子どもを取り巻く環境、いじめ問題にも変化が起きていて、今の子どもたち、今の子育て世代はこんなふうになっているのか、と大変勉強になりました。


自分の経験の中で判断しようとせずに、今の子どもたち、今の子育て家庭、今の教育現場で一体何が起きているのか、常にアンテナを張りながら、困りごとに寄り添えるようにありたいと思います。

精神科医のつぶやき「丁寧なインフォームド・コンセントとは」 (2025/06/30)

先日見たオンデマンドの研修で、インフォームド・コンセントの話がありました。


昔のお医者さんは「とにかくこれが一番いい」と、患者さんに説明せずに治療を進めることが多くて、これは「パターナリズム」という考え方、やり方でした。その後、逆に、患者さんが自分で決めてください、という「インフォームド・コンセント」が大切にされるようになりました。でも、それがかえって「専門的なことまで一人で決めなきゃいけない」というプレッシャーになってしまうこともありました。

そこで最近では、「患者さんと医療者が一緒に考えて、納得できる治療を選ぶ」という「SDM(Shared decision making:共同意思決定)」という考え方が広まっています。


ただ、「SDM(共同意思決定)」をする上でも、「インフォームド・コンセント」の考え方も大事で、「インフォームド・コンセント」を丁寧にやっていく延長上に、「SDM(共同意思決定)」があると考える方が適切であると思います。


オンデマンドの研修では、丁寧な「インフォームド・コンセント」について解説されていました。

内科でも、この「インフォームド・コンセント」が必要になるのは、何か検査をして、その結果を伝え、治療をどうするか、という場面です。

そこで、結果だけ伝えて、「治療どうします?」といった聞き方では、患者さんが本当に自分の意見を考えて伝えることが難しかったり、知識の足りなさから妥当な判断ができなかったりといった問題点が出てきます。

では、どのような手順で、結果説明を行い、治療方針を決めるのが良いのでしょうか?


まず、来院理由や困りごとの整理を一緒に行います。

そもそも、最初にどういった困りごとを抱えて病院に来て、その話を聞いた上で、必要な検査を受けてもらったことを振り返ります。


その上で検査を行ったこと。

いくつか検査を受けてもらった場合もありますし、初診の時は患者さんも緊張して、検査の説明を十分に聞けておらず、医者に言われたから受けた、みたいな場合もあると思うんですよね。再度、こういった検査を受けてもらいました、ということを丁寧におさらいします。


そういった振り返りを行った後に、改めて検査結果の説明をします。

そうすると、なぜこの検査をしたのか、その結果の意味するところが何なのかを改めて整理して受け止めやすくなると思います。

そして、結果が本人にとって良い結果である場合も、悪い結果である場合もあります。結果を聞いて、どう感じたか、そのことへの思いやりを向ける時間が必要になります。そして、本人がどうなりたいかを意思表示してもらった上で、それに対して医療機関が何が出来るかの説明をしていく、それが本来の「インフォームド・コンセント」ということになります。


研修では、がん患者さんへの説明を前提とした話でしたが、精神科/心療内科でも、全く同じようにしていけたら、それが理想と思いました。


本人がどうしたいか、どうなりたいかがすぐに考えられないこともありますし、医療機関が出来ることを提示しても、それをすぐ決められないこともあると思います。その場合は、一旦持ち帰っていただき、2週間後等に予約を取っておいて、あらためて気持ちを聞いたりもしています。今の医療制度では、なかなか診察時間が取れないのも事実です。その中でなんとか工夫しながら、患者さんが受け入れられるように結果説明をしていきたいと思います。

精神科医のつぶやき「サイコシンセシスで学んだこと|サイコシンセシスを学んで まとめ」 (2025/06/23)

サイコシンセシスについて、少しずつ書いていき、とりあえず、書きたかったことを書けたように感じています。今まで書いたことを、まとめてみようと思います。


サイコシンセシスでは、人の意識領域の周りにある無意識をの領域を、大きく3つに分けています。下位無意識、中位無意識、上位無意識の3つです。


下位無意識は、自分のこれまでの人生での経験で感じたこと、考えたこと、思ったこと、いろんな記憶やエネルギーが抑圧されています。願望、欲望、行動力といった、とても強い、人としての根本的な生命エネルギーが溢れているエリアでもあります。


中位無意識は意識を中心として、今現在の意識に近いエリアで、何かきっかけがあればすぐ思い出せるような意識、現在の活動に直接関わっているエリアです。


上位無意識は、自分と他人を繋ぐような、集合無意識であったり、自分の人生の目的、自分の存在意義、自分が何に向かうべきかといった、人間を成長に導くエネルギーのエリアです。


従来のカウンセリングは、下位無意識と言われている、その人のトラウマの問題であったり、インナーチャイルドの問題であったり、その人の抱えている歪んだ信念だったりを、ケアしていくのが大きな目的であったと思います。サイコシンセシスも、下位無意識への対処はとても重要視しています。


しかし、実際、下位無意識へのアクセスはとても負担が大きいものです。そもそも、辛い体験であるからこそ、蓋をして、意識の奥深くに閉じ込めて、自分の意識に登ってこないように、無意識に抑圧しているエリアです。その蓋を開ける作業が簡単なはずもないし、楽しいはずもありません。


サイコシンセシスでは、その大変な作業を行うのに、上位無意識の力を借りることがあります。この視点が、他の心理療法にない視点かな、と思います。

上位無意識のエリアには、自分が望ましいと思う特性を強化するヒントがたくさんあります。そのエネルギーを拝借しながら、下位無意識のアクセスを進めていくイメージです。


何が必要かは、その人によって違います。純粋にエネルギーを必要とする人もいますし、リラックスできること、自分にパワーがあると信じること、愛情、忍耐力、意志の力、清明さ、いろんな要素を必要とすることがあります。今、たちまち健康であまり困っていない人でも、「もう少し自分を律せるといいなあ」とか「もう少し体力があるといいいなあ」とか「もう少し自己主張できるといいなあ」とか、そんなふうに思うこともありますよね。そういう時にも、上位無意識の力を借りて、イメージによって得たいものを取り入れるようにしていくことが可能です。


サイコシンセシスでは、下位無意識や中位無意識の理解のための方法の一つとして、サブパーソナリティワークというのをします。私たちはいろんな仮面をかぶって生活しています。それは、例えばオーケストラみたいなイメージでしょうか。たくさんの演奏家がいて、一つの曲を演奏しています。演奏家の一人一人がサブパーソナリティで、その指揮をしている人が、「セルフ」と呼ばれる、自己の中心的存在、ということになります。たくさんのサブパーソナリティがいても、「セルフ」が指揮をとってうまく調和が取れていると、特に大きな問題にはなりません。


ところが、サブパーソナリティが、「セルフ」が意図していないところで急に動き出すと、少し困る場合が出てくると思います。


実際、「なんであのとき、あんな風にしちゃったのかな」と思うことや、「いつもこのことがうまくいかないな」と感じているときには、想定していないサブパーソナリティが出てきてしまっていることがあると思います。適応的なサブパーソナリティも含めて、自分にどんなサブパーソナリティがあるか、少し考えてみましょう。


何か強い負の感情を感じているときは、サブパーソナリティが出てきていることが多いです。怒っているときや、悲しんでいるとき、落ち込んでいるとき、不安になっているとき。そして、その感情を何とかしようとして、何か行動を起こします。それがうまくいくといいのですが、あまりうまくいかないことも多く、かえって事態を悪化させてしまうこともあるのです。


サブパーソナリティは、だいたいが、子どもの頃の経験から形成されています。子どもの頃、辛かった体験をなんとかやり過ごそうとして、子どもなりになんとか振る舞い、そのときに学習したパターンがサブパーソナリティとなって、私たちの中に残ります。子どもの頃は、それでなんとか、そのしんどい状況を切り抜けていたのですが、大人になった今は、それは不必要だったり不適切だったりすることがあるんですね。でも、自分の中の子どもは、一生懸命そのパターンを繰り返して、頑張って自分を守ろうとしています。


なので、何かうまくいかないときに、「なんで自分ってこんなにダメなのかな」とか「自分って最悪だ」といった形で自分を責めるのではなく、「子ども時代の私が必死で頑張ってるんだ」「何が困って子ども時代の私がSOSを出してるんだろう?」と自分に問いかけてみるのが良さそうです。


サブパーソナリティと対話する方法はいくつかあります。サイコシンセシスで一番有名なのは「エンプティチェア」の技法だと思います。イメージの中で、椅子に座っている自分をイメージします。そして、向かいに椅子を用意し、そこに、自分のサブパーソナリティが座っていることをイメージします。そこで、二人で会話をします。そうして、そのパーソナリティに対する理解を深めるというやり方です。


このやり方は、少し心に負荷をかける方法で、トラウマの大きい方は気持ちのつらさが出てくる可能性があります。気持ちのつらさの強い人は、カウンセラーと一緒に取り組む方が良いかなと思います。


それより安全で取り組みやすい方法として、絵を描くというやり方があります。白い紙に大きな丸を書きます。そして、それを8等分する線を書きます。ピザとかケーキとかを切るような線ですね。そしたら、8個のおうぎ形が出来ます。そのそれぞれに、自分のサブパーソナリティをイメージする絵を描きます。それは、直感的なものでいいのです。綺麗に書こうとか思わなくて大丈夫です。ただ、自分のサブパーソナリティを象徴するような色、形、エネルギー、イメージをそこに書きます。書いてみて自分が何を感じたかを感じ取って下さい。


大切なのは、サブパーソナリティの存在に気づくことであって、サブパーソナリティを変えようとしたり消そうとしたりすることではありません。ダメな自分にダメ出しをするのではなく、「そばにいるよ」「大丈夫だよ」と自分の子ども時代の苦労をねぎらい、「どうするのがいいのか一緒に考えよう」というスタンスで、サブパーソナリティ達と対話していくようにできるといいのかなと思います。


同一化と脱同一化について。これもサイコシンセシスの主要な技法の一つです。サブパーソナリティとの対話の場合にも使える技法になります。


まず、同一化について。自分のサブパーソナリティや自分の一部に、しっかりと入り込む感じです。サブパーソナリティの感覚、感情、思考、意欲、そのようなものとしっかりと一体化します。そのサブパーソナリティの中で呼吸をして、その存在をしっかりと感じ取ります。同一化することで、何か気づくことがあるか、感じることがあるかを受け止めていきます。


それと、脱同一化ですが、これは、自分のサブパーソナリティから離れることです。ちょっと客観的になって、「あ、今、私のサブパーソナリティが出てきて何か訴えているぞ」と気づくことです。このような気づきを持てているときは、そのサブパーソナリティと距離を置けていて、脱同一化できていることになります。自分の精神機能のさまざまな部分にも、この脱同一化をすることが出来ます。


すごく悲しくなったり、不安になったりしているときも、「自分自身が悲しみなのではなく、今私は悲しみを持っている、悲しみという感情を持っている」と認識することで、悲しみと自分自身を分けることが可能になります。悲しみに同一化し、しっかりとその感情を感じて受け止めていく作業と、悲しみから脱同一化し、感情は自分の一部であって自分自身ではない、という認識を持つことは、どちらも大事です。同一化と脱同一化を、自分の意志で行えるようになったとき、私たちは自分のサブパーソナリティや自分の思考、感情、意欲などともっと上手に付き合えるようになっていきます。


サブパーソナリティや、自分の精神機能(思考、感情、意欲、イメージなど)をとりまとめている、指揮者の部分を、サイコシンセシスでは「セルフ」と呼びます。本来の自分、本当の自分ですね。自分が「セルフ」の状態でいられるとき、心は落ち着いていて、均衡の取れた状態になります。「セルフ」であるためには「意志」をもつことが重要になります。


「セルフ」の行うことは「選択」です。例えば、前回の「同一化」と「脱同一化」ですが、何かと同一化することも、そして脱同一化することも、「セルフ」が「選択」することができます。ただ、この「セルフ」に気づいていない状態では、サブパーソナリティに無意識に同一化しているため、「自分らしさ」から離れてしまい、苦痛やストレスを抱えるようになります。そのことに気づき、「選択」できる状態になると、「本来の自分らしさ」が戻り、生きる喜びや充足感が得られやすくなります。


なので、サブパーソナリティや自分のパーツに気づくことはとても大事です。気づいて、しっかり同一化して、そして脱同一化する。そのことを繰り返していくうちに、自分で、今の自分がどの「モード」でいるのか、どの「モード」でいたいのかをコントロールできるようになっていきます。


「セルフ」は「選択」をしていくというのが大事な役割になっていくのですが、この「選択」をするために重要なのが「意志」の力です。


サイコシンセシスでは、「意志」にはいくつかの側面があると説かれています。

代表的なものに「強い意志」「たくみな意志」「善い意志」が挙げられます。


「強い意志」というのが、通常私たちが「意志」という言葉に抱くイメージだと思います。「あの人は意志が強い」とかいった表現をしたりもしますよね。エネルギーや力強さの象徴でもあります。でも一方で、熟達することやコントロールすること、鍛錬することも意志の大事な側面で、「うまくやる」ことで、「より楽しく」欲求を満たすことにも、「意志」が役に立つのです。それが「たくみな意志」ということになります。集中力、決断力、持久力、自発性といった特性も、意志に関連しています。そうやってみると、「意志」という精神活動にいろんな特性があることが見えてきます。


サイコシンセシスでは、それぞれの意志を鍛えるための演習も紹介されています。

「強い意志」を強化するための演習としては、以下のようなことが推奨されています。

・毎日、ほんの少し、無駄なことをする。

・単純で、やさしい、小さなことを、正確に、規則的に、持続的にいくつも行う

・数日したら、課題を変えて同じように取り組む

・定期的な身体運動を行う


「たくみな意志」を鍛えるための演習は、エネルギーを最も節約できるような戦略を開発することになり、「強い意志」の演習とは少し異なります。でも、「強い意志」で力押しに何かを勧めるのではなく、「うまくエネルギーを使う」という考え方は、私はとても好きです。

「たくみな意志」を鍛えるのには、イメージをよく活用します。

・置換の技法:何かにとらわれてしまったときに、他のイメージを選び、注意をそちらに向ける練習をする

・心理的毒素から注意をそらす:心理的にエネルギーを落としてしまうような、攻撃性・暴力・恐れ・うつ・落胆・貪欲の感情や意欲が出てきたときに、他のイメージを思い浮かべることで、注意をそらす練習をする

・望ましいイメージを喚起する:自分の望んだ状態が達成されているところをイメージし、そのように振る舞ってみる


ただ、どのような意志も、その目的が「善いもの」でなければ、自分自身と周囲、自然と調和することが難しくなっていきます。自分が成し遂げようとしていることが、他の人々の幸福と矛盾しないような目標を選ぶことが大事になってきます。それが「善い意志」と呼ばれる部分になります。常に、自分と周り、環境との調和にも目を向けるようになっていくと、自己実現をしていく中で、充足感を感じていけるようになると思います。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

精神科医のつぶやき「「意志」の力を鍛える|サイコシンセシスを学んで その10」 (2025/06/23)

前回、「セルフ」は「選択」をしていくというのが大事な役割になり、その「選択」をするために重要なのが「意志」の力である、ということに触れました。


サイコシンセシスでは、「意志」にはいくつかの側面があると説かれています。

代表的なものに「強い意志」「たくみな意志」「善い意志」が挙げられます。


「強い意志」というのが、通常私たちが「意志」という言葉に抱くイメージだと思います。「あの人は意志が強い」とかいった表現をしたりもしますよね。エネルギーや力強さの象徴でもあります。でも一方で、熟達することやコントロールすること、鍛錬することも意志の大事な側面で、「うまくやる」ことで、「より楽しく」欲求を満たすことにも、「意志」が役に立つのです。それが「たくみな意志」ということになります。集中力、決断力、持久力、自発性といった特性も、意志に関連しています。そうやってみると、「意志」という精神活動にいろんな特性があることが見えてきます。


サイコシンセシスでは、それぞれの意志を鍛えるための演習も紹介されています。

「強い意志」を強化するための演習としては、以下のようなことが推奨されています。

・毎日、ほんの少し、無駄なことをする。

・単純で、やさしい、小さなことを、正確に、規則的に、持続的にいくつも行う

・数日したら、課題を変えて同じように取り組む

・定期的な身体運動を行う


「たくみな意志」を鍛えるための演習は、エネルギーを最も節約できるような戦略を開発することになり、「強い意志」の演習とは少し異なります。でも、「強い意志」で力押しに何かを勧めるのではなく、「うまくエネルギーを使う」という考え方は、私はとても好きです。

「たくみな意志」を鍛えるのには、イメージをよく活用します。

・置換の技法:何かにとらわれてしまったときに、他のイメージを選び、注意をそちらに向ける練習をする

・心理的毒素から注意をそらす:心理的にエネルギーを落としてしまうような、攻撃性・暴力・恐れ・うつ・落胆・貪欲の感情や意欲が出てきたときに、他のイメージを思い浮かべることで、注意をそらす練習をする

・望ましいイメージを喚起する:自分の望んだ状態が達成されているところをイメージし、そのように振る舞ってみる


ただ、どのような意志も、その目的が「善いもの」でなければ、自分自身と周囲、自然と調和することが難しくなっていきます。自分が成し遂げようとしていることが、他の人々の幸福と矛盾しないような目標を選ぶことが大事になってきます。それが「善い意志」と呼ばれる部分になります。常に、自分と周り、環境との調和にも目を向けるようになっていくと、自己実現をしていく中で、充足感を感じていけるようになると思います。

精神科医のつぶやき「「セルフ」は「選択」をすることが重要です|サイコシンセシスを学んで その9」 (2025/06/23)

前回、同一化と脱同一化について書きました。


同一化と脱同一化をしていくと、いろんなことを考え、感じ、動いている自分がいるのですが、でも、思考も感情も感覚も意欲もイメージも本来の自分ではない。それらは持っているだけで、自分自身ではないのです。サブパーソナリティも自分ではない。では自分とは?という問いかけになります。自分とは本質的には何者なのだろう?でも、確実に「自分」は存在します。


サイコシンセシスでは、この「自分」を「セルフ」と呼んだりしますが、「セルフ」の行うことは「選択」です。例えば、前回の「同一化」と「脱同一化」ですが、何かと同一化することも、そして脱同一化することも、「セルフ」が「選択」することができます。ただ、この「セルフ」に気づいていない状態では、サブパーソナリティに無意識に同一化しているため、「自分らしさ」から離れてしまい、苦痛やストレスを抱えるようになります。そのことに気づき、「選択」できる状態になると、「本来の自分らしさ」が戻り、生きる喜びや充足感が得られやすくなります。


なので、サブパーソナリティや自分のパーツに気づくことはとても大事です。気づいて、しっかり同一化して、そして脱同一化する。そのことを繰り返していくうちに、自分で、今の自分がどの「モード」でいるのか、どの「モード」でいたいのかをコントロールできるようになっていきます。


そうやって「セルフ」は「選択」をしていくというのが大事な役割になっていくのですが、この「選択」をするために重要なのが「意志」の力です。サイコシンセシスの創始者のアサジョーリ先生は、この「意志」の力をすごく重視されていて、それだけで本を1冊作られているほどです。


つまり、「意志」を鍛えると良い、ということになるのですが、「意志」を鍛えるのって、大変そうな感じがしませんか。なんだか辛そうな感じというか、滝修行でもするようなイメージがあります。なので恐る恐るこの本を読みました。


結論から言うと、実際、地道な練習も必要だったりするのですが、ただとにかく頑張る的な、「力押し」をするような意志の話だけではなかったんですよね。もちろん、意志の力が強い方がいいのは事実です。でも、力押しでやっていって、すぐに倒れてしまうようでは、大きなことをなしえていくのは不可能です。そこで、「巧みな意志」と言われる、意志の力を上手に活用する方法も提示されておりました。


次回、この「意志」についての話を続けていきます。

精神科医のつぶやき「本から得た知識のシェア|クリニックで診る摂食障害」 (2025/06/23)

実はこの本は、再読です。

でも、時々来られる摂食障害の患者さんに、もう少し助けになれたらと思いもう一度読むことにしました。


クリニックで診る摂食障害

www.amazon.co.jp

3,740円


読みたいと思った動機

もう一度、クリニックでできることを復習したい。


得たい知識

摂食障害の患者さんが来られて、クリニックで何をしてあげられるか。特に、心理教育についての知識をおさらいしたい。


クリニックに来る患者さんは、摂食障害の人に限らず、どのくらいの治療意欲を持ってこられるか、本当にまちまちです。その相手の治療意欲の程度を見て、どのような対応をするのか調整する必要があります。この本でも、「治療に対する動機づけの段階」として、次の5段階を挙げていました。

1 自分の状態を病気と認識していない段階

2 問題意識は芽生えているが、食行動を変えようとしていない段階

3 自分の状態を変えねばならないと考え努力している段階

4 治療を受けて治したい、または転医してきた段階

5 食行動が改善し、この状態の維持と再発を予防している段階


1の段階では、心理教育で病気について理解してもらった上で、現在の状態を続けることによって得ることと失うことについて考えてもらいます。


2の段階では、1と同じく、現在の状態を続けることによって得ることと失うことを考えてもらうのですが、現在、1年後、5年後について考えてもらいます。そして、得ることよりも、失うことが圧倒的に多いことを理解してもらいます。


3の段階では、病気で得ているものを捨てる覚悟をしてもらう必要が出てきます。病気に立ち向かい、自分を変えようと決意することになります。小さな変化を継続して引き起こしていくことを、応援し支えることになります。


4の段階では、具体的な食生活日誌を書いてもらい、取り組めることを一緒に考えていきます。


5の段階では、家庭、学校、職場でのストレスや問題を見つけ、それを解決するように促していきます。


この段階別の関わりを見ていくと、まず、心理教育にもう少し力を入れた方がいいなと思いました。患者さんに病気について知っていただき、病気がもたらす心身への影響について理解していただくことは、治療動機を高める上で重要だと感じました。


そして、患者さんの治療意欲に応じて、どこにポイントを置いて関わっていくか。最終的には、ストレスや問題に対処していくところまで支援していきたいのですが、それに取り組むためにも体力を回復させる必要があります。


別の講演会でも、摂食障害をもっと精神科医がきちんと対応できるようになっていく必要性があると、演者の先生が熱く語っていました。もう少し自分のスキルを上げていきたいと思います。

精神科医のつぶやき「薬の終了時の説明についても資料を作りました」 (2025/06/23)

症状が改善し、徐々にやめることになった場合、それに伴い通院も終了することがあります。通院の卒業で嬉しいことですよね。でもそのときにも、いくつか気をつけていただきたいことをお話ししているのですが、それについても資料を作ってお渡しした方がいいのかなと感じました。

以前、薬の開始時の説明についての資料を作りました。これは、使ってみたらかなり良い感じで、伝え忘れもないし、あとで患者さんに読んでもらえるし。予診や事前聞き取りをする看護師とも、このような資料を渡すという情報をシェアして、事前に伝えられることは伝えてもらえたり、あとで先生からこういった説明があると思います、といった話をしてもらってます。


開始時は本当に大事ですが、終了時だって大事ですし、同じように共通して話す項目がたくさんあります。

まずは離脱症状について。
・お薬をやめてしばらくの間、離脱症状がでることがあります。
・お薬はゆっくり減らしてから中止すると、離脱症状は出現しにくくなります。
・離脱症状として、不安感、発汗、ふるえ、頭痛などが出ることがあります。
・離脱症状は、長くても2週間ほどで消失します。
・離脱症状が現れても、軽症であればそのまま様子を見て下さい。
・離脱症状が気になる場合は、我慢せず一度診療所に連絡をして下さい。

それから、再発の徴候について。
・病気が一旦よくなっても、何か脳に大きな負荷がかかると再発することはあります。(私はよく骨折に例えます。骨折が治っても、交通事故に遇ったりしたらまた折れてしまうことはありますよね)
・再発の徴候は、睡眠と食欲に現れることが多いです。
・気になる徴候が出たら、我慢せず一度診療所に連絡をして下さい。

皆さん、通院を終了できるのは本当に嬉しいことと思うんですね。でも、それ以上に、生活を快適に送ることが大事です。通院再開を嫌がるあまり、生活に支障が出るのは良くないと思っています。病気は、何でも早期発見早期治療が良いと思っています。早く対処した方が早く良くなります。なので、困ったらとにかくまたすぐ来て欲しい。二度と病院に行かないことが大事ではなくて、時々メンテナンスをしながら、良い状態を維持することが大事ですよね。

そのためにも、良くなったらきちんと通院を終了する。通院し出すとやめられなくなると思われないようにしていきたいです。もちろん、通院していた方が安心する方は、しばらく通院を継続させていただいています。相手のニーズに応じて柔軟に対応することが大事かなと思います。

とにかく、これで資料を作って、薬物治療を終了する方に渡していきたいと思います。

精神科医のつぶやき「本から得た知識のシェア|不安へのエクスポージャー療法」 (2025/06/23)

買ってみたものの、分厚い本で躊躇しておりました。しかし、目的を持って読み、知識を吸収していこうと思います。Amazonで見ると2024年1月に購入したとのこと。寝かせすぎですね。頑張って読見ました。


不安へのエクスポージャー療法: 原則と実践

amzn.asia

6,600円



読みたいと思った動機

暴露療法は心理師やPSWに任せっきりの状況なのですが、やはり自分でもちゃんと把握しておきたい。カウンセリングを希望されない方に対して、診察時間で少しでも伝えられることがあれば知りたい。


得たい知識

エクスポージャー療法の基本的な考え方、実践方法。

診察でも使えそうな方法があればそれも知りたい。


これは、いろんな不安に対するエクスポージャーの仕方が載っており、教科書的にそばに置いておきたい内容です。エクスポージャーといえば、強迫性障害に使用するイメージが強いのですが、社交不安症、パニック障害、広場恐怖、トラウマなど広範囲の不安に対応しており、また強迫性障害の中でも扱いにくく感じる「侵入思考」や「しっくりこない感じ」などに対する対応も書かれています。


エクスポージャーは、患者さんが不安だから避けていたり、なんとか不安を感じなくて済むようにとっている対処行動に対して介入する治療です。なので、取り組む難易度は高めだと思います。ただし、そのかわり、効果は高いです。不安障害に対する根本的な治療法と言っても過言ではないと感じます。


ただ、この難易度の高い治療法に取り組むには、工夫が必要です。避けている不安に向き合い、対処行動をやめていくためには、ある程度段階が必要です。でも、治療のための工夫の段階なのか、患者さんが不安と向き合うことを避ける手助けになってしまっているのか、治療者と患者さんが実施しようとしている方法が、どこに向かうことになるのか、それを理解しておくことが大事だと思いました。エクスポージャーの原則、原理をきちんと理解し、目の前の患者さんと話し合っている作戦が、その原則原理に外れていないかをチェックできるようになる必要があると感じます。


この本には、事例もたくさん載っていて、こういう点に気をつければいいのだなということが理解しやすいです。文量が多く読み応えはありますが、読むと自分の臨床スキルの幅が広がるのを感じられると思います。


短時間の診療でも、不安障害の患者さんにとって、どのような行動が望ましく、どのような行動が望ましくないのかを知っておくだけでも、患者さんにできる助言が変わってくると思います。ただ、その不安と向き合うことの大変さも理解し、その大変さをいたわる気持ちも忘れてはいけないと感じました。

精神科医のつぶやき「社会や家族にできることを考える|メンタルヘルス不調の方の社会復帰について その6」 (2025/06/23)

さて、10月の講演会ラッシュに備えて、資料作りをしていますが、一つ目の「メンタルヘルス不調の方の社会復帰について」はそろそろ仕上げになりそうです。



最後に伝えようと思っていることは、社会や家族にできることについてです。

・復職はゴールではなく「再スタート」

・無理のないペースで見守ること

・企業に必要な視点(柔軟な勤務設計、継続的配慮)

このような内容を話そうと思います。


復職は「ゴール」ではなく「再スタート」

・治療や休養を経て職場に戻ることは通過点

・再発予防・安定した就労継続のためには、長期的な支援が必要

・「元に戻る」ではなく「新しい働き方を築く」過程と考える

これは、医療従事者も気をつけなければなりませんが、休養を経て、なんとか復帰できると、そこがゴールのように感じて、周りは「良かった良かった」と安心するところがあるかと思います。でも、本人からするとそこからが踏ん張りどころです。また、「元通り」になることも気をつけなければなりません。「元通り」になるということは、「無理をして再発する」ことにつながる場合があります。メンタルヘルス不調の経験を経て、無理のない新しい働き方を見つけていくことが大切だと思います。


無理のないペースで見守ること

・本人の「できること」と「やりたいこと」にはギャップがあることも

・焦らせず、変化に一喜一憂しすぎず、日々の積み重ねを見守る姿勢が大切

・「励ましすぎず、突き放さず」:適度な距離感と共感的な関わりを

一番焦ってしまうのは本人で、周りがそれを止めるような関わりをしてちょうど良いことが多いです。無理をして途中で倒れてしまうより、確実にやっていけるペースの方がいいんですよね。しばらく休んでいたので、感覚を思い出すのにも時間が必要です。かといって、本人が少しずつペースを上げたいと思っているのに、あまりにも安全を取り過ぎても行けないので、まさに、「励ましすぎず、突き放さず」みたいなバランス感覚が大事なのかなと思います。


企業に必要な視点

・柔軟な勤務設計:例)時短勤務・業務調整・在宅勤務など段階的な負荷調整

・継続的配慮:例)面談の継続・業務内容の見直し・職場内理解の促進

・「復職=フル稼働」ではない。回復の段階に応じた職場づくりがカギ

復帰の際には、基本的に元の仕事を出来ることを目指していただくようになりますが、状況によっては、病状にあわせた配慮を検討してもらうことが出てきます。試し出勤制度を導入している会社も増えており、数ヶ月から半年ほどの期間をかけて、徐々に元の勤務量に戻すような、段階的な配慮をしていただけると、復職はずいぶんスムーズになると思います。


社会全体の理解と寛容さ

・メンタルヘルスの回復には「環境の安全性」が不可欠

・再発を責めず、助けを求めやすい空気づくりを

・「不調は誰にでも起こりうるもの」──その前提が支援の出発点

メンタルヘルスの問題は、もはや誰にでも起こりえるものになってきています。本当に、「明日は我が身」です。困ったときに、助け合える土壌は絶対必要と思います。みんなが、他人事ではなく自分事としてメンタルヘルス問題を受け止めるようになっていただきたいと思います。


これで、なんとか講演スライドをまとめます。そして次の講演資料作りに入りたいと思います。

精神科医のつぶやき「社会や家族にできることを考える|メンタルヘルス不調の方の社会復帰について その6」 (2025/06/23)

さて、10月の講演会ラッシュに備えて、資料作りをしていますが、一つ目の「メンタルヘルス不調の方の社会復帰について」はそろそろ仕上げになりそうです。



最後に伝えようと思っていることは、社会や家族にできることについてです。

・復職はゴールではなく「再スタート」

・無理のないペースで見守ること

・企業に必要な視点(柔軟な勤務設計、継続的配慮)

このような内容を話そうと思います。


復職は「ゴール」ではなく「再スタート」

・治療や休養を経て職場に戻ることは通過点

・再発予防・安定した就労継続のためには、長期的な支援が必要

・「元に戻る」ではなく「新しい働き方を築く」過程と考える

これは、医療従事者も気をつけなければなりませんが、休養を経て、なんとか復帰できると、そこがゴールのように感じて、周りは「良かった良かった」と安心するところがあるかと思います。でも、本人からするとそこからが踏ん張りどころです。また、「元通り」になることも気をつけなければなりません。「元通り」になるということは、「無理をして再発する」ことにつながる場合があります。メンタルヘルス不調の経験を経て、無理のない新しい働き方を見つけていくことが大切だと思います。


無理のないペースで見守ること

・本人の「できること」と「やりたいこと」にはギャップがあることも

・焦らせず、変化に一喜一憂しすぎず、日々の積み重ねを見守る姿勢が大切

・「励ましすぎず、突き放さず」:適度な距離感と共感的な関わりを

一番焦ってしまうのは本人で、周りがそれを止めるような関わりをしてちょうど良いことが多いです。無理をして途中で倒れてしまうより、確実にやっていけるペースの方がいいんですよね。しばらく休んでいたので、感覚を思い出すのにも時間が必要です。かといって、本人が少しずつペースを上げたいと思っているのに、あまりにも安全を取り過ぎても行けないので、まさに、「励ましすぎず、突き放さず」みたいなバランス感覚が大事なのかなと思います。


企業に必要な視点

・柔軟な勤務設計:例)時短勤務・業務調整・在宅勤務など段階的な負荷調整

・継続的配慮:例)面談の継続・業務内容の見直し・職場内理解の促進

・「復職=フル稼働」ではない。回復の段階に応じた職場づくりがカギ

復帰の際には、基本的に元の仕事を出来ることを目指していただくようになりますが、状況によっては、病状にあわせた配慮を検討してもらうことが出てきます。試し出勤制度を導入している会社も増えており、数ヶ月から半年ほどの期間をかけて、徐々に元の勤務量に戻すような、段階的な配慮をしていただけると、復職はずいぶんスムーズになると思います。


社会全体の理解と寛容さ

・メンタルヘルスの回復には「環境の安全性」が不可欠

・再発を責めず、助けを求めやすい空気づくりを

・「不調は誰にでも起こりうるもの」──その前提が支援の出発点

メンタルヘルスの問題は、もはや誰にでも起こりえるものになってきています。本当に、「明日は我が身」です。困ったときに、助け合える土壌は絶対必要と思います。みんなが、他人事ではなく自分事としてメンタルヘルス問題を受け止めるようになっていただきたいと思います。


これで、なんとか講演スライドをまとめます。そして次の講演資料作りに入りたいと思います。

精神科医のつぶやき「本から得た知識のシェア|感覚の困りごとへの心のケア」 (2025/06/23)

感覚過敏の患者さん、多いので、読んでみました。


感覚の困りごとへの心のケア―センサリーフレンドリーをめざす支援の実際

amzn.asia

2,640円



読みたいと思った動機

学会誌に紹介があり、感覚過敏の患者さんに対して何か役に立つ情報があればいいなと思って購入した。自分が現在している支援が正しいかどうかも確認できればと思っている。


得たい知識

感覚の困りごとに対する具体的な対応法があれば知りたい。

感覚に困っている人をどう支援すればいいのかが知りたい。


感覚過敏は、音(聴覚)、光(視覚)が一番分かりやすいですが、他にも味覚、触覚、嗅覚の感覚過敏もあり、食事や服のこだわりにつながることになります。それから痛覚。痛みに敏感あるいは鈍感であったりとか。それと、温覚、湿覚に過敏な人もいて、暑がりとか寒がりが酷かったり、体調を崩しやすかったり。湿気が高いと気分が悪くなり、乾燥してても喉が乾いて辛くなったり。あとは圧覚に過敏があるかどうか。これは天気や気圧が変化すると頭痛が起きて辛いとかですね、これは結構いろんな人にみられると思います。前庭覚に過敏があると、姿勢を保つのが難しくなったりするようです。温覚、湿覚、前庭覚なんかは初耳です。圧覚に過敏な人の話はよく聞きますが、これも感覚過敏に入るとは認識してなかったですね。


感覚過敏の人は、過敏でいることに疲れ、また解離や防衛のため、感覚鈍麻になることがあるようです。また、何かに夢中になる過集中やこだわりといった行動も、感覚過敏からくる可能性があり、感覚過敏だからこそ特定の感覚にこだわり過集中になる可能性があるとのこと。

また、感覚過敏があると対人関係にも影響し、人との関わりを避けたり、あるいは逆に、人を信用しすぎて騙されたりと、他人との距離の取り方がうまくいかなくなるとのこと。

そもそも、感覚過敏は自閉スペクトラムやADHDといった発達障害の人に多いので、その為もあると思うのですが、こだわりや過集中の強い人には、感覚過敏があるのでは?という視点を持つことは意義がありそうです。


また、不安が強くなると感覚過敏が悪化するとのこと。なので不安のケアをすることはとても重要になります。

あとは自分と周囲が理解し、可能ならば環境調整していく、苦手なことはスモールステップで慣らす、という対策が必要になるそうです。


他の人が平気なことができない、と感じて自己肯定感が低下している人は多いです。でも、感覚過敏であることで、たくさんの刺激を受けて疲れやすくなってしまっています。生活リズムを整えることを意識して、食事の好き嫌いも少しずつ慣らして、とにかく体調を安定させること、そして上述の不安対策をすること。


社会も少しずつ、感覚過敏の人に向けた取り組みが始まっているようで、スーパーで音響や光を柔らかくする日を設定するといった試みがあるようです。感覚刺激を減らすと、通常の人でも楽に感じます。社会全体が、もう少し様々な刺激を減らす方向に向かってくれると良いなと思います。

精神科医のつぶやき「同一化と脱同一化について|サイコシンセシスを学んで その8」 (2025/06/23)

サイコシンセシスについて書いてます。前回までサブパーソナリティの話を書きました。


今日は、同一化と脱同一化について書きたいと思います。
これもサイコシンセシスの主要な技法の一つです。サブパーソナリティとの対話の場合にも使える技法になります。

まず、同一化について。自分のサブパーソナリティや自分の一部に、しっかりと入り込む感じです。サブパーソナリティの感覚、感情、思考、意欲、そのようなものとしっかりと一体化します。そのサブパーソナリティの中で呼吸をして、その存在をしっかりと感じ取ります。自分の一部と同一化する場合でも、例えば自分の感情をしっかりと捉え、その感情を体のどこに感じるのか、大きさはどれくらいか、どんな質感や形状をしているのか、温度感はどんな感じか、その感情が自分に何を訴えかけているのか、そういったことをしっかりと感じていきます。
そして、同一化することで、何か気づくことがあるか、感じることがあるかを受け止めていきます。

それと、脱同一化ですが、これは、自分のサブパーソナリティから離れることです。ちょっと客観的になって、「あ、今、私のサブパーソナリティが出てきて何か訴えているぞ」と気づくことです。このような気づきを持てているときは、そのサブパーソナリティと距離を置けていて、脱同一化できていることになります。自分の精神機能のさまざまな部分にも、この脱同一化をすることが出来ます。例えば、感情。私たちは、感情を持っています。でも、感情が私たち自身ではありません。何か強い感情に圧倒されそうになっているときに、「私は今、この感情を持っている、でも私自身が感情なのではない」という認識を持つことは、すごく大切だと思うんですね。

すごく悲しくなったり、不安になったりしているときも、「自分自身が悲しみなのではなく、今私は悲しみを持っている、悲しみという感情を持っている」と認識することで、悲しみと自分自身を分けることが可能になります。悲しみに同一化し、しっかりとその感情を感じて受け止めていく作業と、悲しみから脱同一化し、感情は自分の一部であって自分自身ではない、という認識を持つことは、どちらも大事です。同一化と脱同一化を、自分の意志で行えるようになったとき、私たちは自分のサブパーソナリティや自分の思考、感情、意欲などともっと上手に付き合えるようになっていきます。

サブパーソナリティや、自分の精神機能(思考、感情、意欲、イメージなど)をとりまとめている、指揮者の部分を、サイコシンセシスでは「セルフ」と呼びます。本来の自分、本当の自分ですね。自分が「セルフ」の状態でいられるとき、心は落ち着いていて、均衡の取れた状態になります。「セルフ」であるためには「意志」をもつことが重要になります。

次回は「セルフ」と「意志」について書きます。

精神科医のつぶやき「エビデンスでわかるトラウマ・PTSD診療」 (2025/06/10)

コロナ感染が流行してから、学会がオンデマンド開催されるものが増え、地方の開業医からすると、何日も休診にせず、好きな時間に教育講演やシンポジウムが視聴できるようになったことは本当にありがたく思っています。昨年の日本精神神経学会総会では、トラウマ関連の講演・シンポジウムが随分と増えたように感じました。やはりこれからの時代は、トラウマの時代になっていくんでしょうか。そこで紹介されていた図書を読みました。


エビデンスでわかる トラウマ・PTSD診療

amzn.asia

3,300円


読みたいと思った動機

著者の講演で紹介されていた。講演はとても整理されていて面白かった。トラウマ診療はこれからすごく重要視される分野なので、きちんと基礎を把握し、二次トラウマを与えないケアを提供したい。


得たい知識

トラウマの標準的対応はどのようなものか、一般診療でもできることがあるか、どのような心理教育が有効か。


あまり分厚くなくスーッと読み切れる本でした。一番励みになったのは、トラウマに対する専門治療を行えなくても、治療をしないよりは助けになることがたくさんあるということがエビデンスで示されていたことです。


ただ、予想通りと言いますか、トラウマに対する専門的治療は、研修を受けることが推奨されているものばかりでした。どこかで時間を作って研修に参加できるといいなと思います。


それでも、一般診療でもできることのヒントがたくさんありました。特に、著者の所属する大学のサイトに、診療で使える心理教育の資材などを無料でダウンロードできるよう提供してくださっているとのこと。実際にサイトを見てみますと、この本で紹介されている以外にもいろんな資材があり、患者さんに使用しても構わないとのこと(研究で使う場合は許可が必要とのこと)でした。


あと印象的だったのはアディクションの問題。アルコール依存や薬物依存の問題が、トラウマ関連診療では併存してよくみられるとのこと。アディクションは専門外でしたが、トラウマを中心に、いろんな精神医学的問題が繋がっていることが理解できました。


なぜトラウマ治療は敬遠されがちなのか、その理由を挙げられておられました。トラウマ診療は、専門家でなければ難しそうなイメージが強いんですよね。でもそれは、ある程度の基本的なことを知れば、我々精神科医がこれまでやってきた治療の延長上で十分対応できることがたくさんあるように感じました。

精神科医のつぶやき「リワークデイケアが果たす役割について|メンタルヘルス不調の方の社会復帰について その5」 (2025/06/09)

前回の記事はこちら。当院のリワークデイケアについても紹介して、リワークデイケアという存在の認知度を上げていきたいと思います。



リワークデイケアが果たす役割は、結局のところ次の3つになるのかなと思います。

・「働ける力」の再構築

・リハビリをする意味

・本人、家族、会社の橋渡し


「働ける力」の再構築

目的:メンタルヘルス不調からの回復と職場復帰には、単なる「症状の軽快」だけでなく、「仕事を継続できる力=ワークエンゲージメントを持てる状態」の回復が必要です。リワークデイケアでの支援内容

・生活リズムの安定: 毎日決まった時間に通所し、起床・通所・活動・帰宅のサイクルを整える。

・認知機能のリハビリ: 注意力・記憶力・遂行機能など、仕事に必要な基礎的認知機能を評価・トレーニング。

・対人スキルの再習得: グループワークやディスカッションを通じ、協調性や適切な自己主張力のトレーニング。

・ストレス対処スキルの獲得: CBT、マインドフルネスなどの技法を取り入れ、ストレス耐性を高める。

・職場を想定した活動:課題推敲やプレゼン練習など、仕事に近い場面での活動を実施。


リハビリをする意味

なぜ「回復=即復職」ではないのでしょうか?

・回復期には「元気になったと感じるが、仕事をこなす体力・集中力はまだ不足している」ことが多い。

・「医学的な寛解」と「社会的な機能回復」にはギャップがある。


リワークの意義

・段階的に慣らすプロセス: フルタイム復帰ではなく、週数回・半日から始めて、徐々に活動量と質を上げていく。

・自己理解の深化: なぜ不調に陥ったのか、どうすれば再発を防げるか、を考える機会。

・成功体験の積み重ね: 小さな達成感を積み上げ、自信を取り戻すことがモチベーション維持につながる。

・再発予防:再燃リスクの高い時期に支援体制があること自体が、安心材料になる。


本人・家族・会社の橋渡し

三者の関係の複雑さ:本人、家族、会社にはそれぞれの思いがあります。

・本人の「不安」や「焦り」

・家族の「心配」と「限界」

・会社の「期待」と「配慮義務」


リワークデイケアの中立的役割:そんな中で、三者の橋渡し的な役割も期待されます。

・本人の代弁者: 専門職が本人の状態を客観的に評価し、第三者的視点で職場と調整。

・家族へのサポート: 家族との面談を通じて、理解や支援の方法を共有。

・会社との連携:復職に向けた「情報提供書」や復職面談同席などで、業務調整や配慮の必要性を伝える。


例:復職前ミーティング

・本人・会社・主治医(または支援者)による三者面談で、復職条件やリスク要因を擦り合わせる。

・例)「週3回、午前中のみ」「段階的に業務を戻す」など。


まとめ

・リワークデイケアは、単なる「通所訓練」ではなく、「働き続けられるための力を再構築し、関係者との橋渡しを行う復職支援」として機能しています。

・医療・家族・職場が連携し、本人が「再発しない形で働き続ける」ことを目指します。


さて、次回に講演自体の締めくくりを作成して、準備が完成しそうです。

精神科医のつぶやき「薬の開始時の説明についても資料を作ってみようと思います」 (2025/06/09)

心理検査の説明文を作って、発達障害の検査希望の人に早速使ってみました。

でも、なんか違和感があるんですよね。自分で好きにしゃべった方が、伝えたかったことが伝わる気がする。でも、患者さんからしたら、後から見返せていいかもとも思うんですよ。言われただけだと、覚えきれないことも忘れることもあると思います。初診でクリニックに来て、緊張した中で診察を受けて、いったい医者に言われたことのどれだけを覚えて帰れるか?ということを自分に置き換えると、半分覚えてくれていたらいい方かなと思うんですよね。

なので、記載した用紙を渡すことは無駄ではないと思いたい。どのみちきちんと書面で渡すことは必要なことだと思いますので、説明の仕方を自分なりに工夫していこうと思います。

資料を作って良かったな、と思ったのは、院内で心理検査について共有できたことです。受付スタッフは、検査の予約を取る兼ね合いでかなり心理検査のことは詳しく知っています。それから検査を担当する心理師ももちろん分かっています。けれども、他のスタッフは、心理検査のこと自体、そこまで細かく把握できていないところもあるんですね。概要は知っているけれども、詳細はちょっと分からない、みたいな。どこの会社でも、他部署の業務は詳しくは分からない、ということはよくあると思います。

しかしながら、当院では、初診の患者さんの予診を取るのは看護師の業務で、看護師も、けっこう心理検査について聞かれたりするらしいんですね。発達障害の検査を受けたいけど、どんな感じなんでしょう?みたいな相談を、予診中に受けたりしてたみたいなんですよ。そこで、知っていることは答えるけど、少し自信のない部分もあったようです。今回作成した資料を看護師さんにも見せたところ、「これで患者さんに尋ねられても答えられる」と喜んでもらえました。実は不安だったのね、と思うともっと早く作れば良かったと思いました。

とにかく自分が作成したものが役に立ちそうで良かったです。

さて、資料を作りたいと思っていることがもう一つ。お薬をはじめてお出しするときの注意点について。これも、けっこう同じ内容を話すようになるので、資料にしてしまって、持って帰って後で読んでもらえるようにしたらいいのかなと思ってます。こちらは同じ内容を何度もいろんな人に話してるんですが、患者さんから聞くと初めての話ですよね。そして伝え忘れがあってもいけないし。薬はいろんな薬がありますが、開始時の注意点はけっこう共通している部分もあるんですよね。

お薬を出すときに、普段説明しているのは以下のような点です。
・精神科のお薬は、少量から開始します。これは副作用の発現を抑えるためです。
・副作用で多いのは、眠気と吐き気です。薬によっては、逆に夜が眠りにくくなったり、頭痛が起きるものもあります。飲み始めの数日間が一番出現しやすく、飲み慣れると取れてくることも多いです。
・効果は、ゆっくりと出てきます。今日飲んで、明日すぐ効果が出るわけではありません。また、少量から開始しているので、効果が十分でなければ、徐々に増やしていくようになります。
・もし、副作用がきつく感じた場合は、一旦中止して下さい。そして、診察の時に、そのことを報告して下さい。診察の予約を早めたい場合は、診療所に連絡をお願いします。

これで資料を作ってみようと思います。

精神科医のつぶやき「共感は、共感しようとする過程が重要」 (2025/06/09)

以前にも共感について書いたことがありましたが、このテーマは本当に難しいです。


先日聞いた研修で、講師の先生がこんなことをおっしゃってました。

「そもそもコミュニケーションとは困難なものです。」

「ストレスのほとんどは対人関係にあります。」

「安易に共感されると嫌だと感じる方が多いです。」

「共感しようとする過程が重要なのだと思います。」

本当に、心に染み入るキーワードばかり。


「そもそもコミュニケーションとは困難なものです。」

この大前提って、結構重要だなと感じました。コミュニケーションとは難しいものなのです。簡単にできることではないんです。だからこそ、練習が必要だったりするんです。できて当たり前のことではなくて、スキルとして学ぶ必要があることなんです。

その意識があるかどうかですよね。うまくコミュニケーションが取れるようになるんだったら、その方法を知り、学び、実践していく必要があるんですね。




「ストレスのほとんどは対人関係にあります。」

これも、その通りだと思います。いろんな人から、ストレスでしんどいという話を聞いた時に、何がストレスか、ということを考えていくと、対人関係にいきつくことがほとんどなんですよね。たとえば過労状態でしんどくなっている人でも、そもそも過労になってしまう原因に、部下に頼めないとか、上司に言われたことを全部頑張ってしまうとか、他人との関係性の問題が浮き上がってくるんですよね。対人関係のストレスを解消していくためにも、上述のコミュニケーションのスキルが重要になってきます。




「安易に共感されると嫌だと感じる方が多いです。」

自分でも、自分の気持ちが分かりかねる時があるのに、ちょっと話しただけで「分かる」とか言われると嫌悪感を抱いてしまう、みたいな話はよく聞きます。楽しい話や、そこまで深刻でない話であれば、ちょっと話して、「あ、分かる!」みたいに盛り上がるのはとてもいいことだと思うんですよ。でも、辛い気持ちや悲しい気持ち、なんとも言えない気持ちなんかは、うまく話せないことも多いし、それでも共感したいと思ってもらえるなら、丁寧に聞いてほしい。そういうことだと思います。




「共感しようとする過程が重要なのだと思います。」

安易に共感するのではなくて、ああでもない、こうでもないって話しながら、自分にぴったりの気持ちの表現を、一緒に探していく。本当に十分には共感できないかもしれない。それでも、そうやってじっくりコミュニケーションをとっていく過程そのものが、とても重要だ、ということですね。相手の話をまず、とにかくひたすら聞くこと。その中で、相手の気持ちを理解するための質問だけをしていくこと。そうやって、相手の気持ちの理解にだんだんと近づいていくこと。それが共感するという過程なのだと思います。

精神科医のつぶやき「リワークデイケアについては熱く語りすぎないように要注意|メンタルヘルス不調の方の社会復帰について その4」 (2025/06/06)

さて、コツコツと作っている講演会の資料です。



リワークデイケアとは何か


そもそもの、リワークデイケアの定義についてです。

リワークデイケアとは、メンタルヘルス不調によって休職している方が、職場復帰に向けて「仕事をする力」を取り戻すための専門的なリハビリテーションプログラムです。精神科の外来治療の一環として、多くの場合は週に数回、日中の時間帯に通所する形式で行われます。


リワークデイケアの目的は、単なる「症状改善」ではありません。休職中の方が「よくなったからすぐ職場復帰」できるとは限りません。うつ病や不安障害などでは、症状が落ち着いた後も、集中力・持久力・対人関係のスキルなどが低下していることがよくみられます。そのため、以下のような「働き続ける力の回復と定着」が、リワークデイケアの目的になります。


・安定した生活リズムの再構築

・認知機能やストレス耐性の向上

・対人関係や社会的スキルのトレーニング

・自己理解と再発予防の強化

・会社との復職調整と職場定着支援


そして、意図としては、安全で持続可能な復職を実現することになります。「とにかく早く職場に戻す」ことを目指すのではなく、復職後に再発しない形で安定して働き続けることをサポートするのが本来の意図です。


リワークデイケアの実施時期について、つまり、どの段階で参加するのか?という点について。「症状の急性期を脱し、体調が安定してきた回復期」に実施するのが理想です。具体的には次のような時期です。


・主治医が「そろそろ社会的活動のリハビリが必要」と判断したタイミング

・本人が「そろそろ働きたい」と感じ始めた時期

・日常生活はある程度こなせるが、まだすぐに職場復帰する自信がない段階


当院でのリワークデイケアの実際

興味のある方、ぜひこちらの記事を読んでいただけたら。



とりあえず講演で話す内容としては、

・ うつ病、躁うつ病、不安障害のために休職している人が対象

・リハビリテーションプログラムによる集団による治療

・週3日(月、水、金)初級入門プログラム(11時15分~12時15分)と上級応用プログラム(9時~10時45分)

・ 期間は3カ月(初級1ヶ月、上級2ヶ月)

・病状が比較的安定してきた段階から働ける段階へ復職準備を高めるもの(復職準備性)


初級プログラム

・ 活動記録表

・認知行動療法(睡眠)

・心理教育

・日記ノート


上級プログラム

・ 活動記録表

・マインドフルネス

・アサーショントレーニング

・認知行動療法(認知再構成法、問題解決技法)

・心理教育(再発予防のリハビリテーション、復職に向けての心得)

・ライフキャリアバランスについての見つめ直し

・復職に向けた過程の整理

・日記ノート


これまでの実績です。

・令和2年7月より開始

・令和6年末で20回目のグループが終了、99名が参加

・1回のグループの参加人数:3人〜14人、平均6.1人

・1人の参加回数:最大4回、平均1.45回


参加者の感想です。

・最初は緊張してしんどかった。体力が落ちていることを実感した。

・他の人の発言を聞いて、悩んでいるのは自分だけではないとわかりホッとした。

・マインドフルネスを知ってリラックス出来るようになってきた。

・自分が悪いと自分のことばかり責めていたが、職場の方にも問題があったのではと気づいた。

・メンバーとコミュニケーションを取ることで、復職に向けての自信が少しついてきた。

・自分の病気や薬について知ることが出来た。


リワークデイケアの認知度を、講演会で上げていきたいと思います。

精神科医のつぶやき「本から得た知識のシェア|システマティック臨床精神医学」 (2025/06/06)

本棚に並べてあった順番なので読み出したんですが、これがすごく面白かったです。この本をいつ買ったのか、なぜ買ったのかがあまり思い出せないんですが、こんないい本を持ってたなんて、と驚きました。スタッフにも頑張って読んでみてほしいと思っています。


システマティック臨床精神医学 4つの多元的観点による治療体系化

amzn.asia

2,970円



読みたいと思った動機

おそらく、先日読んだ「精神科診断に代わるアプローチPTMF」に紹介されていたのか、それか、何かの雑誌で紹介されていたのか、興味をひいて購入したものと思われる。

あ、ちょっと思い出したような。確か、スタッフに精神医学について説明できたらと思い、精神医学の復習をしたいと思ったのと、何か新しい見解が得られそうだなと思って興味を持って購入したような記憶がある。


得たい知識

精神医学は今どんな状況になっているのか?

副題にある「4つの多元的観点」とは何か?

何か今の診療に活かせそうな内容はあるか?


いつものように速読でささーっと読もうと思ったのですが、症例ベースの本で、面白くてついしっかり読んでしまいました。


4つの多元的観点とは、「疾患」「特質」「行動」「生活史」です。


「疾患」:患者が has=「持っている」

臨床症候群→病理学的過程→病因

目標:サポートし薬剤で治療する

一番私たち臨床家に馴染みのある観点ですね。今の患者の症状を把握し、そこから病気、病因を考える観点です。


「特質」:患者が is=「である」

潜在因子→誘発因子→反応

目標:導く

患者さんのパーソナリティだったり、知能や発達特性などに当たります。その人が元々持っている特質に、何か誘発因子が加わって、今回の反応を起こしているという観点です。


「行動」:患者が does=「する」

生理学的衝動、条件づけ学習、選択の3つの要素が互いに影響する

目標:介入する

その人が起こした行動は、その人の衝動と、これまでの経験(学習)から選択されている、という観点です。その人のこれまでの生い立ちや経験から、そのような行動を起こした、という部分を理解する指標です。


「生活史」:患者が encounters=「遭遇する」

場→順序→転帰

目標:修正する

患者さんが何に遭遇し、それにどのような影響を受けたのかを知る観点です。ライフイベントによって精神症状が引き起こされたことを理解することに役立ちます。


4つの観点からのアプローチから、治療者は治療目標を考え、どのような治療を施行するかを決めます。確実に効果のある治療を行うためのアプローチとも言えます。


8人の症例を、この4つの観点からのアプローチで解説されており、また、医師がどのような声掛けで情報を収集しているか、そのやりとりも載せてくれているため、具体的な診察場面がイメージできるような内容です。とても勉強になりました。患者さんを見る視点、判断する観点を磨いていきたいです。

精神科医のつぶやき「サブパーソナリティのルーツは子ども時代のトラウマ|サイコシンセシスを学んで その7」 (2025/06/04)

前回、サブパーソナリティとは何か、という話をしました。サブパーソナリティは、いわゆるインナーチャイルドとほぼ同義とみてよいと思います。子ども時代に形成され、必死に私たちを守ろうとしてくれています。



そんなサブパーソナリティと対話する方法はいくつかあります。サイコシンセシスで一番有名なのは「エンプティチェア」の技法だと思います。イメージの中で、椅子に座っている自分をイメージします。そして、向かいに椅子を用意し、そこに、自分のサブパーソナリティが座っていることをイメージします。そこで、二人で会話をします。そうして、そのパーソナリティに対する理解を深めるというやり方です。


このやり方は、少し心に負荷をかける方法で、トラウマの大きい方は気持ちのつらさが出てくる可能性があります。気持ちのつらさの強い人は、カウンセラーと一緒に取り組む方が良いかなと思います。


それより安全で取り組みやすい方法として、絵を描くというやり方があります。白い紙に大きな丸を書きます。そして、それを8等分する線を書きます。ピザとかケーキとかを切るような線ですね。そしたら、8個のおうぎ形が出来ます。そのそれぞれに、自分のサブパーソナリティをイメージする絵を描きます。それは、直感的なものでいいのです。綺麗に書こうとか思わなくて大丈夫です。ただ、自分のサブパーソナリティを象徴するような色、形、エネルギー、イメージをそこに書きます。8人もいないと思う人は6等分でもいいし、たくさん書きたい人はもっと分割してもいいと思います。そして、書いてみて自分が何を感じたかを感じ取って下さい。サブパーソナリティ同士で、仲の良い同士と仲の悪い同士があったりします。そういうところにも気づいてもらえるといいのかなと思います。


大切なのは、サブパーソナリティの存在に気づくことであって、サブパーソナリティを変えようとしたり消そうとしたりすることではありません。私の中に、こういう部分があるんだな、と気づいて、その部分が頑張ってくれていることに気づくことが出来るといいなと思います。でも、その上で、そのやり方のしんどさやアンバランスさに気づき、どうしてそうなっているかに思いをはせてみてもらえるといいと思います。前回書きましたが、サブパーソナリティのルーツは子ども時代のトラウマであることが多いです。子どもの頃は、そうやって必死に対処してきました。でも、大人になると、もっと違うやり方が出来るようになってきています。大人になって、いろんな知識、技能をもった今ならば、子どもの頃とは違う方法が選べます。ダメな自分にダメ出しをするのではなく、「そばにいるよ」「大丈夫だよ」と自分の子ども時代の苦労をねぎらい、「どうするのがいいのか一緒に考えよう」というスタンスで、サブパーソナリティ達と対話していくようにできるといいのかなと思います。


サイコシンセシスで学んだことはもう少し書いてみます。

「本から得た知識のシェア|今さら聞けない睡眠の超基本」 (2025/06/04)

この本は、厚さの割にイラストも多くてとても読みやすかったですよ。

一般の方向けの内容でためになると思います。


今さら聞けない 睡眠の超基本 (今さら聞けない超基本シリーズ)

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1,540円



読みたいと思った動機

著者の講演が非常にわかりやすく面白かった。睡眠とは、まだまだわからないことが多く、謎の多い生体活動のよう。しかし、これから新しい睡眠薬がたくさん販売されることになっており、それらを扱う医師として、睡眠の基本を知らないと恥ずかしいのではないかと感じた。


得たい知識

今自分が持っている睡眠の知識が正しいのか?

新しい見解が何かあるのか?

診察で、不眠症で困っている方に何か役に立つ知識があるだろうか?


やはりというか、知ってましたが、睡眠、すごく大事ですね。各国と比較して日本人の睡眠不足は深刻で、平均プラス1時間は寝た方がいいとのこと。そうすると日本人のパフォーマンスはもっと上がるだろうということでした。


あと、朝型か夜型か、という話。人間は体質的に朝型と夜型があるのと、子供と大人は朝型になりやすく、思春期は夜型になりやすいのだとか。確かに私は若い頃は夜型でしたが、最近は朝型です。朝型夜型のチェックができるサイトの紹介もあり、それで調べたら今の私は超朝型でした!あんなに、早起き苦手だったのに不思議です。


夢を見ているレム睡眠も、睡眠にとってはとても大事で、よく「夢ばっかり見て寝た気がしない」という話もありますが、実際夢を見ている時間もとても大切な、体が本当に休まっている時間のようです。夢を見ている=眠りが浅い、とは言い切れない部分があるとのこと。


あと印象に残ったのは、パワーナップ(昼寝)の話。私も実は昼寝をすることが多いのですが、これは14時までに20分以内が理想とのこと。最近昼寝をしすぎたらかえって寝起きがしんどいので、ちょうど20分に短縮したところだったので、理にかなっていたと知ってちょっと嬉しくなりました。


睡眠や眠気という生理現象は、実際まだまだわかっていないことも多いようで、これからの科学の進歩にも期待したいところがたくさんあります。


実際の不眠症という点では、「眠れていない」と自覚されている人でも実際は眠れている、という事実が多く、加齢に伴い睡眠の質が変化していることを「眠れていない」と感じているケースも相当あるとのこと。最近は、自宅で睡眠脳波を測定できるデバイスがあるようで(それの紹介もありました)、気になる方は一度測定してみると、実際本当にあまり眠れていないのか、実際は眠れているのか、確認できるようです。実際に眠れているのならば、薬を使ったりする必要がなくなるので、このような測定の機会を積極的に利用してみるのは良いな、と感じました。

精神科医のつぶやき「試験勉強の計画を立てました|労働衛生コンサルタントを取ってみたい その2」 (2025/06/04)

過去問を解いてみたら、結局、さっぱりわからないというか、知らないことがたくさんありすぎて。受験科目は「労働衛生関係法令」一つに絞ってみようと思います。


Kindle Unlimitedで、対策本を2冊書い、ざっと目を通しました。結構細かく覚えなければならない感じです。

しかし、私、暗記は決して得意ではないですが、試験対策は得意なんです。 これまでいくつもの難関受験、難関資格を突破してきた意地をここで見せたい。

ありがたいのは結構過去問がしっかりしており、傾向がわかりやすいこと。公認心理師の受験に比べると雲泥の差です。


最近はネットやChatGPTを使って色々調べるのも楽になりました。対策本2冊を軸に、わからないことは調べながら、自分なりのまとめを作成していき、暗記に繋げていこうと思います。


個人的には、対策本のうち、こちらの本がわかりやすかったです。


これ1冊で完成!労働衛生コンサルタント試験 筆記試験対策 参考書&問題集 2025年新傾向対応

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1,250円


この本のタイトル分類に基づき、もう1冊の方のデータも入れつつまとめ作りやってみます。


タイトルは全部で13分類あり、さらに下位項目があります。


1 安全衛生管理体制:6項目

2 健康診断:4項目

3 機械に関する規制:4項目

4 安全衛生教育:3項目

5 じん肺、粉じん障害予防:4項目

6 化学物質:9項目

7 有機溶剤:7項目

8 鉛:5項目

9 電離放射線:5項目

10 石綿:7項目

11 酸素欠乏症:4項目

12 高圧作業:4項目

13 事務所則:9項目


全部で71項目ですね。


まず1項目あたり何日くらいでまとめが作れるかやってみて、学習の計画を立ててみようと思いました。まとめを作る段階で、ある程度頭には入りますが、繰り返し読んだり過去問を解いたりして記憶を定着させる時間も必要です。どんなに遅くとも、8月中にはまとめを作り終え、9月には過去問をひたすら解いて記憶を定着させる時期に入る必要があると感じています。できれば7月中にまとめを作り、8月から過去問を解きに入りたい。


1時間ほど時間があるときにまとめ作りをしたら、3項目ほどは出来ました。

でも、平日の仕事上がりは疲れている日もあります。

無理のないペース、と考えると、1週間で10項目、7週間でまとめ作りがとりあえずの目標値かなと考えました。

noteで他の方の勉強方法や体験談も見させていただきました。お勧めyoutubeや対策講座の受講なども念頭に入れつつ、まずは労働衛生関係法令の筆記試験に向けてコツコツ勉強してみます。

精神科医のつぶやき「本から得た知識のシェア|ワークシートで学ぶ問題解決療法」 (2025/06/04)

こちらの本は、とある講座で紹介されており、読みやすそうと思ったのと、問題解決療法単独で取り扱った図書は読んだことなかったな、と思い購入しました。ワークシートとか、現場でも使えそうだなと、あと表紙から読みやすそうな印象も持ちました。実践のコツを教えてくれるとのこと、ありがたいじゃないですか。


ワークシートで学ぶ問題解決療法: 認知行動療法を実践的に活用したい人へ 実践のコツを教えます

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1,980円


読みたいと思った動機

認知行動療法を実践的に使えるようになりたい。知識の深掘りをしたい。また、他のスタッフも認知行動療法を行なっており、使えるものならシェアしたい。


得たい知識

問題解決療法の復習をしたい。

実践のコツを知りたい。

診察場面でも応用して使えそうなことがあれば知りたい。


問題解決療法のイメージとして、心理療法というよりは、具体的に問題を解決しようとする「アドバイス」的な要素が強いもののような印象を持っていました。改めて復習してみて感じたのは、立派な「心理療法」だということです。


「問題」の定義の仕方から、すでに心理的介入があります。私たちはいろんなことに困って、嫌な気持ちやストレスを抱えて生きているのですが、それをきちんと明確にできていないことも、案外多いと思うんですよね。日々辛い、悲しい、イライラする…いろんな感情を抱えていても、「それはなぜ?」ということと、「じゃあ、どうなりたいの?」というところが、曖昧なことが多いと思います。


最初のステップで、まず問題は何か?を考えていきます。それに対して、どうしたいのか?どうあるべきなのか?を考えて、そして、現在の状態はどうなのか、を考えます。この部分を丁寧にすると、現在の状態を望む方向(状態目標)に向けていくために、何をしたらいいのか(行動目標)、が見えてくるようになります。


行動目標はできるだけアイディアを出して、吟味し、最終的にどれからやってみるかを決めます。そしてやってみて、フィードバックを行い、最初に戻ってまた問題を考え、目標を立て、行動を決めます。その繰り返しを行なっていく中で、徐々に大きな問題が、ゆっくりと解決に向かっていきます。


実践のコツとしては、こちらの問題意識や、常識を押し付けないことかなと思います。でも、患者さんが困り事や悩み事を整理できる視点を提供する手法として役に立ちそうに思います。結局、問題は何なのだろう?どうなりたいの?どうすべきだと思っているの?現状はどうなの?それらを問いかけるだけでも、患者さんの悩みが整理され、解決方法を考えやすくなるように感じました。

精神科医のつぶやき「社会復帰が難しい背景について|メンタルヘルス不調の方の社会復帰について その3」 (2025/06/04)

10月の講演会の準備です。以前は講演会の準備、少々めんどくさいと思いながら、診療の合間にコツコツとやってたんですが、今はその過程もnoteの記事になると思うと、モチベが上がります。


何かを作るときに、できあがった作品を評価するのではなくて、その過程も知ってもらうことって、けっこういいのかなと思います。作る方も、過程を提示することで、完成までのモチベになりますし、見る方も、できあがっていく過程を見るのも楽しかったりしますよね。個人的にはリフォームとかDIYとかの動画も見ていて面白いと思うので、他人が何かを作っていく過程を見させてもらって共有することも、それを好ましいとか楽しいとか思う人もいるんですよね。


ちょっと無駄話になりました。さて、講演会の資料作成の続きです。



今日は、社会復帰が難しい背景についてまとめていきたいと思います。

・職場の理解不足

・自信喪失、孤立

・再発への不安

・制度の谷間、支援体制の難しさ


職場の理解不足について。これには大きく2つの方向性があると思います。


まずは、「復帰したならもう大丈夫でしょ?」という誤解についてです。

・メンタルヘルス不調=風邪のような一過性のものという誤った認識

・復職をゴールとする就業規則や復帰プログラムの構造:一度「OK」が出たら、通常通り働けるはずという扱いになりがち

・可視化できない症状への無関心:「元気そうに見える」「普通に話せてるのに、なぜ配慮が必要なのか」といった見た目依存の判断


このような誤解が職場にあると、結果として以下のようなことが起きます。

・本人が本当はまだしんどいのに言えなくなる:状態の波を出せず、悪化リスクが高まる

・周囲が配慮や調整を途中でやめてしまう:「もう普通に戻ってるんでしょ?」という空気感

・再発や再休職につながりやすくなる


あとは、メンタル不調そのものへの過剰な心配や、本質的な理解がなされていない場合ですね。

・形だけの配慮にとどまることが多い:形式的な勤務制限や時短対応はあっても、業務内容や人間関係の調整は不十分なまま。

・「一度休んだ人」へのレッテル:「また休むのではないか」「責任ある仕事は任せにくい」といった偏見や不安が根強く、本人の居場所がなくなることも。

・管理職や同僚の心理的負担:「どこまで踏み込んでよいか分からない」「腫れ物に触るようになってしまう」という声も多い。


制度的には復職可能でも、職場文化や風土が変わらなければ「本当の意味での復帰」にはなりにくい、と言えそうです。

それから、本人の自信喪失、孤立という問題点。

・病気の影響だけでなく、職場や社会との接点を失うこと自体が大きな打撃:「自分にはもう働く力がないのでは」「また迷惑をかけるのでは」という思考に陥りやすい。

・回復に時間がかかる過程で、社会的役割の喪失感が強まる:特に責任感が強かった人ほど、アイデンティティの喪失が深刻。

・孤立が悪循環を生む:周囲との関係が希薄になり、相談もしづらくなって、さらに不安や無力感が増す。


「病気が良くなった」ことと、「元の役割を担える自信」を取り戻すことは別のプロセスである、ということを認識していただく必要が出てきます。

再発への不安も、大きな懸念材料です。

・過去の経験がトラウマに近い形で残る:「あの時のように、また調子が悪くなってしまうのでは」という強い恐怖。

・再発リスクへの過度な意識が、復職へのブレーキになる:ある種の「自己保身的適応」であり、回避傾向が強まる。

・支援者や医療者も慎重になりすぎる場合がある:本人の不安を尊重するあまり、復帰のチャンスを後ろ倒しにしてしまうことも。


「再発しないこと」をゴールにすると、動けなくなってしまいます。 小さな成功体験を積み重ねる支援が必要になります。

最期に、 制度の谷間、支援体制の難しさについて。

・「医療」と「職場」をつなぐ仕組みが弱い:医師の診断書や意見書だけでは不十分。職場との対話や調整が必要だが、それを担う人材や制度が少ない。

・リワーク等の支援制度が限定的:地域格差が大きく、制度に乗れない人も多い。

・障害者雇用制度とのはざま:発症時期や診断名によっては福祉制度にうまく乗れない。精神疾患特有の「見えにくさ」がネックに。


医療・福祉・職場・本人をつなぐ「中間支援」が弱い社会では、社会復帰は「自己責任」に陥りやすい、と言えそうです。

だいたいこんなところでしょうか。また少しずつまとめていきます。

精神科医のつぶやき「「治ったのに働けない」とはどういうことなのか|メンタルヘルス不調の方の社会復帰について その2」 (2025/06/04)

10月に3本の講演会を抱え、少しずつ準備を開始しております。


まず冒頭の、「治ったのに働けない」問題について。

これは、うつを含むメンタルヘルス不調全般にいえることじゃないかと思うのですが、メンタルの症状は、全部一変に改善するのではなく、比較的回復が早い症状と、回復が遅い症状があるんですね。

たとえば、不安感や気持ちの落ち込みといった、気分面の症状は、割と早くに回復してきてくれたり、お薬がよく効いてくれたりします。

しかし、意欲面だったり、認知機能の面で、回復が遅れることが良くあります。なので、気分は良くなってきたのに、何か活動しようとすると動けない、ということが起こったりします。


しかし、そのことをご存じなく、診察でも「(気分は)良くなった」という風に話をされますと、医者の方は「改善した」と判断します。そして、「では復職しましょう」という流れになる可能性があります。実際、意欲や認知機能が回復していないと、職場にいってもパフォーマンスが戻らない、働くことがつらい、すぐ疲れるといった困りごとが生じるようになります。


特に、下記のような認知機能低下については、長引くことが多いです。

・集中力の持続:数分で切れる、注意が飛ぶ

・記憶力の低下:会話や指示をすぐに忘れる

・判断力の低下:業務の優先順位がつけられない

・処理速度の低下:作業に極端に時間がかかる

・マルチタスク処理の困難:複数の仕事を同時にこなせない


実際の職場復帰ではこれらの「業務に必要な認知機能が戻っているか」が非常に重要です。しかし、この認知機能の面は、気分の回復と比べて見えにくく、捉えにくいところがあります。


そして、この認知機能が十分改善していないのに復帰した場合に、「会社に戻ってみたが、全然うまく働けず、再休職」という場合が出てきたりします。

なぜそのような状況になるのかについては、以下の2点が考えられます。

・脳のエネルギー回復や神経ネットワークの再構築には時間がかかる

・「会社に戻った時点」で社会的ストレスが再び加わると、脆弱な認知機能が再び破綻しやすい


しかし、主治医から復帰許可が出て、復帰されてきた人に対して、一般的に社会や職場の方は、以下のように考えると思います。

・「もう薬も減ってきたし、元気そうだから大丈夫でしょ?」

・「病気が治ったなら、すぐ普通に働けるはず」


これはある意味、病気か、健康か、といった線引きのはっきりした「健康/病気」の二分法的な見方になるんですが、その考え方がメンタルヘルス不調の現実とは乖離しています。


実際には、以下のような病気と健康の間くらいの状態はよくあることです。

・「心身のパフォーマンスがまだ不安定」

・「午前中だけは大丈夫だが、午後からがしんどい」

・「週5はまだ無理。週3〜4日からなら…」

そのため、回復には段階的な支援や職場の理解が不可欠になってきます。


結局のところ、メンタルヘルス不調の方の社会復帰の問題点は、

・早期復職→再休職の悪循環

・「甘えている」「怠けている」といった誤解

・患者自身も「元に戻れない自分」を責めてしまう

といったところになるかと思います。


また少しずつまとめていこうと思います。

精神科医のつぶやき「産業医業務が増えてきて思うこと|労働衛生コンサルタントを取ってみたい その1」 (2025/06/04)

最近、産業医業務が増えてきまして、それに関連した講演活動も少しずつ依頼を受ける機会が増えてきました。産業医分野におけるメンタルヘルスの問題も大きくなり、関心が高まっていることと関連していると思います。


それに伴い、報酬について考えなければならない部分も出てきました。個人で受けるのか、医療法人で受けるのか。どちらにもメリットデメリットがあるように感じられ、どうしたものかと検討中でした。


そんな折、労働衛生コンサルタントという資格について知る機会がありました。もう少し、産業分野の勉強をしたいと思っていたので、自分のスキルアップにもなりそうです。また、労働衛生コンサルタントの資格を取ると、事務所を開設する必要が出てくるようで、そのメリットもあると考えました。


労働衛生コンサルタントは、労働衛生コンサルタント試験に合格し、厚生労働大臣指定登録機関の登録を受けて、事業場における労働衛生の水準の向上を図るため、事業者からの依頼により事業場の衛生についての診断や、これに基づく指導を業として行う専門家です。労働衛生に関する高い専門知識はもちろん、豊富な経験に裏付けられた高い指導力、業務に関する信用の保持が求められます。

公益財団法人 安全衛生技術試験協会(https://www.exam.or.jp/)

医師免許所持者は受験が可能で、なおかつ筆記試験のうちの労働衛生一般健康管理については免除になるとのこと。また、指定の講習を受ければ筆記試験が全科目免除にもなるとのことで、医師が受験するのはかなり有利なように見えます。


筆記試験に合格するか、講習会を受ければ、口述試験を受けて、最終合否が決まるようです。口述試験は必須のようですね。


講習会を調べると、一般的に3日間ほどのものになるようです。開業医に3日平日休みは正直厳しいですね。筆記試験も平日なので、どのみち1日は休まないと行けませんが、経営へのダメージは少ない方がいい。


なので、今年はまず筆記試験にチャレンジしてみて、あまりにも難しい場合は、来年講習会を受けるというパターンでやってみようかと思います。


しかし、その筆記試験もどうやら医師なら免除できる科目もあるとのこと。


労働衛生コンサルタント(保健衛生)筆記試験はこの3科目。

・労働衛生一般    (択一式 30問) 試験時間2時間

・労働衛生関係法令  (択一式 15問) 試験時間1時間

・健康管理 (記述式 4問中2問を選択) 試験時間2時間

このうち医師が免除申請できるのは「労働衛生一般」と「健康管理」。


じゃあ労働衛生関係法令だけでいいのか、と思ったんですが。合格基準に下記のような文言が。


合格基準

〈 学科試験 〉科目ごと(第一種衛生管理者試験の科目のうち範囲が分かれているものについては範囲ごと)の得点が40%以上で、かつ、その合計が60%以上で あること。

公益財団法人 安全衛生技術試験協会(https://www.exam.or.jp/)

つまり、もし他の2教科で得点が取れるなら、他でカバーできる可能性があるとのこと。法令一択の方がしんどい可能性もあるということのようです。


過去にチャレンジした方で、丁寧にまとめていらっしゃるブログがあったので拝見しました。


安全衛生技術試験協会から過去問をダウンロードして解いてみて、1科目受験か2科目受験かを決めるのが良い

せりさんぶろぐ(https://sangyoi-seri.com/consultant-written-test-exemption2/)

なるほど、まずは今の実力で解いてみて考えればいいようですね。今年は7月末までが出願期限で、試験が10月です。ちょっと過去問を解いてみて、対策を考えようと思います。

精神科医のつぶやき「自分の中の子どもは、頑張って自分を守ろうとしています|サイコシンセシスを学んで その6」 (2025/06/04)

前回、サブパーソナリティという概念を紹介しました。


サブパーソナリティは、私たちのこれまでの経験の中で作られた私たちの一部です。心理療法の流派によっては、これを「パーツ」と呼ぶこともあります。普段は、状況に合わせて、自分のいろんなサブパーソナリティがやってきて自分の代わりに色々と立ち振る舞ってくれます。しかし、時々、「困ったサブパーソナリティ」というものが出てきて、困った反応をすることがあります。


何か強い負の感情を感じているときは、サブパーソナリティが出てきていることが多いです。怒っているときや、悲しんでいるとき、落ち込んでいるとき、不安になっているとき。そして、その感情を何とかしようとして、何か行動を起こします。それがうまくいくといいのですが、あまりうまくいかないことも多く、かえって事態を悪化させてしまうこともあるのです。


サブパーソナリティは、だいたいが、子どもの頃の経験から形成されています。子どもの頃、辛かった体験をなんとかやり過ごそうとして、子どもなりになんとか振る舞い、そのときに学習したパターンがサブパーソナリティとなって、私たちの中に残ります。子どもの頃は、それでなんとか、そのしんどい状況を切り抜けていたのですが、大人になった今は、それは不必要だったり不適切だったりすることがあるんですね。でも、自分の中の子どもは、一生懸命そのパターンを繰り返して、頑張って自分を守ろうとしています。


なので、何かうまくいかないときに、「なんで自分ってこんなにダメなのかな」とか「自分って最悪だ」といった形で自分を責めるのではなく、「子ども時代の私が必死で頑張ってるんだ」「何が困って子ども時代の私がSOSを出してるんだろう?」と自分に問いかけてみるのが良さそうです。


私は、人に何か指摘されると、素直にそれを受け止めるのが難しいです。どうしても反発したり、言い訳したりしたくなります。でもそれは、子ども時代の自分のパターンなんですね。子どもの頃、理詰めで叱られ、言い返せず、悔しい思いをしたときのパターンです。それに気づいた今でも、何か指摘されると言い訳したくなったり、反発したりしたくなります。でもそのときに、「あっ、これは子どもの私の苦手なヤツね。大丈夫、大人の私が対応するから、あなたは無理しなくていいよ」と、サブパーソナリティと対話し、違うパターンを試してみる、ということが少しずつできるようになってきました。


次回はサブパーソナリティとの対話について少し書こうと思います。

精神科医のつぶやき「HSPは医学診断ではないけれども、相談を多く受けます」 (2025/06/04)

何年か前から、自分は「HSP」なんです、と主張する患者さんが増えてきました。HSPかどうか診断してほしい、と依頼されることもありました。しかし、HSPの概念は医学診断ではないので、病院で診断はできないんですよね。最近はそういった情報も周知されてきたのか、診断して欲しいという方は減りました。でも、診察の中で「私、HSP傾向があって」という話を患者さんがされることはまだよくありますし、私自身、「この人はHSPに当てはまるんだろうな」と思いながら診察することはよくあります。


HSP(Highly Sensitive Person)とは何?ということを改めて調べました。

アメリカの心理学者エレイン・アーロン(Elaine N. Aron)博士が1990年代に提唱した概念で、「感覚処理感受性(Sensory Processing Sensitivity, SPS)」が高い人を指します。


HSPの主な特徴(アーロン博士によるD.O.E.S.の4要素)

以下の4つの特徴すべてに当てはまる人がHSPとされています。

D(Depth of processing):物事を深く考える。経験や出来事を丁寧に咀嚼しやすい。

O(Overstimulation):刺激を受けすぎると疲れやすい。音・光・におい・人混みなどに敏感。

E(Emotional reactivity and Empathy):共感力が高く、感情的な反応が強い。他人の感情に巻き込まれやすい。

S(Sensitivity to subtle stimuli):微細な変化や雰囲気に気づきやすい(音、匂い、表情など)。


HSPの人は、今のような情報社会だと刺激が多すぎて、とにかく疲れてしまうと思うんですよね。デジダルデトックスなども含めて、自分に入る情報を減らす工夫は必要になってきそうですね。そのあたり、本能的に分かっていて、テレビやSNSでの情報の取り入れ方を警戒されている方は多いように思います。


あと、HSPという概念も知らず、なぜか生きづらいと悩んだり、メンタル不調になってしまったりして受診される方もいます。このような方には、自分の特性を理解し、人と他人が異なることを理解してもらう必要はあると感じています。はっきりHSPと言わなくても(医学的診断ではないので、医者からHSPですと伝えるのはなるべく避けています)、「人より感受性が強そうである」「人より多くの情報を察知し受け取る力がある」といった形で伝えます。


そして自分のことを理解してもらって、精神疲労を避ける生活を考えるのと同時に、「他人は自分ほどには察せられない」ということを理解してもらうことが大切だと思っています。


そうでないと「なぜあの人は、分かっているはずなのにしてくれないんだろう」というストレスをためてしまうことになるんですね。自分だったら相手の気持ちを察して、何も言わずとも気を回すのに、相手はそれをしてくれない、ということで不満だったり、相手に嫌われていると思っていたりする方、けっこういらっしゃいます。「いや、それ相手の方、多分、分かってないですよ」と伝えると、「えっ」ってビックリされるんですよね。自分が鋭いから、人類は皆、鋭いと思ってるんですね。良い意味でも自分の特性を理解し、周りはもう少し「鈍い」ということを知っていただけると、「仕方ないか」と折り合いのつくところが増えるように思います。

精神科医のつぶやき「10月の講演会ラッシュ!コツコツ準備します|メンタルヘルス不調の方の社会復帰について その1」 (2025/06/03)

5月にしては異例の暑さの中、今年の夏はいかほどに暑くなるのか怯えている今日この頃。しかし、季節を先取りして、秋のイベントの準備をしなければなりません。なんと、今年の10月は、3回ほど講演会の依頼をいただきました。一気に3回分の講演会の資料を作るのは大変ですので、早めに少しずつ準備していきたいと思います。


まず最初に、市の保健センターから依頼された講演会から準備しようと思います。これは毎年依頼をいただいていて、市民の方向けの講演会です。担当の方と、年初のうちに講演内容についても打ち合わせを済ませています。他の2つも、大体の内容は打ち合わせしていますが、まだちょっと微調整が入りそうなので。


講演会のタイトルは「メンタルヘルス不調の方の社会復帰について」です。講演時間は 2時間と、比較的長めです。良く言えばしっかり伝えたいことが話せますが、悪くいうとしっかり準備していないと間が持ちません。でも、私いつも喋り出すとすごく喋ってしまうので、たくさん用意して全部話そうとすると早口になってしまい、ゆっくり喋るよう担当の方からお願いされることもしばしばです。

なので、そこそこのちょうどいいところの準備をしていけたらと思います。


話したい内容としては、一つには当院のリワークデイケアの紹介です。私、個人的に、今年はリワークデイケア啓発年にすると決めていて、機会があればリワークデイケアの話をするようにしています。とてもいいプログラムになっていて、多くの方に知っていただき、利用していただきたいと思っているのです。



まず、リワークデイケアをするようになったきっかけにも関しますが、メンタルヘルス不調になった方の社会復帰の難しさについて伝えたいと思います。他の病気とはどう違って難しいのか、という点を話したい。


具体的には、以下のような項目について話したいと思います。


「治ったのに働けない」ということが起こり得ることについて

・メンタルヘルス不調者に起こる「機能の低下」

・気分面が回復しても、認知機能はすぐには戻らない

・一般的な「回復」イメージと実態のギャップ


社会復帰が難しい背景について

・職場の理解不足

・自信喪失、孤立

・再発への不安

・制度の谷間、支援体制の難しさ


リワークデイケアとは何か

・リワークデイケアの目的、意図

・リワークデイケアの実施時期


当院でのリワークデイケアの実際

・プログラム内容

・これまでの実績

・参加者の感想


リワークデイケアが果たす役割

・「働ける力」の再構築

・リハビリをする意味

・本人、家族、会社の橋渡し


社会や家族にできること

・復職はゴールではなく「再スタート」

・無理のないペースで見守ること

・企業に必要な視点(柔軟な勤務設計、継続的配慮)


だいたいこんな枠組みにしようと思います。少しずつ話す内容も記事にしてまとめていきたいと思います。

精神科医のつぶやき「ロールシャッハテストの説明資料を作ります|心理検査の説明資料を作成します その4」 (2025/06/03)

発達障害に関する心理検査の資料は無事に完成しました。次はロールシャッハテストです。



ロールシャッハテストとは、「投影法」と言われるタイプの心理検査になります。心理検査には「質問紙法」というものがあって、これは「はい」「いいえ」で答えるタイプの検査になります。自分で自覚している気持ちに答えていくことになりますので、困り感の自覚のある方には良い検査です。

しかし、自分が何に困っているのか、何がしんどいのかあまり分からない時ってありますよね。


それに対して投影法では、あいまいな形での検査を実施し、自分が自覚していない部分についても「映し出す」ことがあります。

ロールシャッハテストでは、インクのしみのようなあいまいな図を見てもらって、それがどう見えるかを答えていただきます。正解も不正解もないので、見えたように答えていただきたいです。

そうやって答えていただいた部分に、自分の感じ方、考え方のパターンやクセなどが「映し出される」ことがあります。もちろん、自覚している部分も出てきます。


その検査結果を見て、ひょっとしたらこんなところがあるかもしれないという可能性を本人にフィードバックしたら、本人とすると納得できるところも多くて、無自覚というよりは、自分でなんと表現していいか分からなかった、という部分が出てくるともいえそうです。


そして、その結果を見て、治療をどうするかを検討する材料にしています。とはいえ、精神科/心療内科の治療は原則、薬物治療とカウンセリングで、どっちをするか、あるいは両方するか、になってきますから、そのあたりを判断する形になります。


一般的に、薬物治療の方が副作用等心配で、カウンセリングの方が負担が少なさそうというイメージもありますが、そんなことはなくて、今は絶対カウンセリングはやめておいた方がいい、みたいなときもあります。


このあたりの伝えたいことをまとめると、以下のような感じになりそうです。


ロールシャッハテストについて

検査の概要:「投影法」と言われるタイプの心理検査です。インクのしみのようなあいまいな図を見てもらって、それがどう見えるかを答えていただきます。正解も不正解もないので、見えたように答えてください。図版は10枚あります。

検査の目的:答えていただいた内容から、現在の精神/心理状態や、自分の感じ方、考え方のパターンやクセなどを解析します。その結果を見て、治療をどうするかを検討する指標にします。

実施者:公認心理師等

所要時間:1時間、要予約

検査結果説明:2週間後以降(連休等の場合はもう少し時間をいただくことがあります)。

注意事項:何らかの理由で、検査を続けることが難しい場合には、検査を中止したり、違う検査に変更することがあります。

これをまた公認心理師さんに確認してもらって、仕上げようと思います。

精神科医のつぶやき「本から得た知識のシェア|精神科の薬について知っておいて欲しいこと」 (2025/06/03)

たまっている本をせっせと読み進めるシリーズです。


精神科の薬について知っておいてほしいこと 作用の仕方と離脱症状

amzn.asia

2,420円


読みたいと思った動機

「精神科診断に代わるアプローチPTMF」の中で紹介されていた。精神科医療や薬物療法自体に慎重だったり、いわゆる「アンチ」な意見が多そう。でも、その中でもエビデンスがあり、きちんとした批判は知識として知っておくべきだし、薬物を処方する立場として気をつけておきたい点があれば知っておきたい。


得たい知識

精神科の薬の作用についての復習

新しい作用仮説などがあればその情報

精神科の薬を使用する意義

精神科薬物を処方する上で気をつけたいこと、配慮すべきこと


こちらの本は、精神科の薬の使用に慎重な姿勢でした。ただ、いたずらに反対しているのではなくて、科学的に薬を使うことの意義や問題点を冷静に捉える試みがされていました。


読んでいて、なるほどと思った点。薬は果たして「病気を治しているのか?」と言う視点。例えば、メンタル不調じゃない人が薬を飲むとどうなるのか、ということの吟味をされている結果、メンタル不調ではない人手も、お薬を飲むと何らかの作用が出ます。実際、不安に効くお薬は、不安の種類がなんであれ、効果が出ます。なので、病気を治しているのではなくて、症状を抑えている、という理解が必要だと言うことです。


ただし、だからお薬が不要ということではなくて、例えば高熱が出ている人は、原因を治す前に解熱剤で熱を下げた方がいい場合があります。痛みが出ている人も、原因が治るまで痛み止めで痛みを抑えて、日常生活が辛くならないよう工夫する意義があります。同様に、薬を使い、たちまちの痛みを軽減することで、日常生活の困りごとを減らすことは、とても大事な使用意義です。


それから、維持療法に関して。精神科の薬は、離脱症状が出ることが多く、薬をやめたときに再発する、調子を崩す、という訴えの多くが、離脱症状の可能性があるとの指摘がありました。そして、今まで一般的に言われていた離脱症状の持続期間(2週間程度)よりもっと長く離脱症状が出ることもあり得るとのこと。


そのため、これまで、お薬をすぐやめると再発する、と言われていたことが、実は離脱症状であって再発ではない方もそうとう含まれている可能性があるとのこと。なので、本当に維持療法が必要なのか、維持療法を行うエビデンスは何なのか、再考しなければならないとの警告がありました。


なので、お薬を減量し、中止にしていくときに、何か症状が出たときに、それが再発なのか、離脱なのかは慎重に評価しなければならないと思います。また、症状がしばらく続くからと行って、再発と決めつけず、単に離脱である可能性も念頭に置いておきたいと思います。


お薬は副作用や離脱も含め、マイナスな点があるのは事実です。だからこそ、正しい知識を持って適切に使っていけるよう、日々精進したいと思います。

精神科医のつぶやき「発達障害に関連する心理検査説明資料|心理検査の説明資料を作成します その3」 (2025/06/03)

以前の記事で、発達障害の検査の時に、普段どのように口頭で説明しているかを書きました。


この内容を元に、資料に載せる文章を作成してみました。


MSPA

検査の目的:困り事が、発達特性によるものかどうかを確認

検査の内容:発達特性全般(自閉スペクトラム症/注意欠如多動症など)について、具体的に聞き取り

実施者:公認心理師等

所要時間:30分〜1時間、要予約

検査結果説明:1週間後以降(連休等の場合はもう少し時間をいただくことがあります)。

注意事項:事前に記入していただくアンケート用紙があります。学生時代の通知表などの情報があれば持参してください。養育者などご家族に協力していただくことも可能です。

WAIS(16歳未満ではWISC)

検査の目的:IQ(知能指数)の測定 発達の特性の強い人は、知能指数の中でも得意な項目と苦手な項目の差が大きく開く傾向が出るため、その確認

検査の内容:様々な問題に取り組んでもらいます。

実施者:公認心理師等

所要時間:1時間半〜2時間、要予約

検査結果説明:2週間後以降(連休等の場合はもう少し時間をいただくことがあります)。

注意事項:うつ状態や不安状態が強い場合は、スコアが下がってしまうため、うつや不安の治療を先に行うことをお勧めします(その場合は、MSPAのみ実施し、診断をつけることも可能です)。2時間以上かかる場合は、2回に分けて実施することがあります。

説明文の下に、同意いただくサインをもらうようにもしようかと思います。(未成年の方の場合は、保護者の方にもサインいただきます)。


心理検査の実施はあくまでご本人の自由意思によるものであり、参加を拒否することや途中で中止することも可能です。また、検査結果につきましては、個人情報を適切に保護した上で、必要な関係者(医療関係者・ご本人・ご本人が許可した人)に限って取り扱います。内容をご理解いただき、同意される場合は、以下に署名をお願いいたします。

だいたいこのような内容で、体裁が整うのではないでしょうか?すでに、予約の取り方やキャンセルについてなどの説明文はスタッフが作成してくれているので、その内容と照らし合わせて、重なっている部分があれば省略しようと思います。実際検査を行う公認心理師にも聞いてみて、内容が、当日ご本人やご家族に説明する内容と齟齬がないか、もう少し事前説明としてしておいて欲しい部分があるか、確認してみて、最終的に仕上げようと思います。

精神科医のつぶやき「自分の中の様々な自分、サブパーソナリティとは何?|サイコシンセシスを学んで その5」 (2025/06/03)

サイコシンセシスでは、下位無意識や中位無意識の理解のための方法の一つとして、サブパーソナリティワークというのをします。これは、私たちの中に、さまざまな人格を持つ別の顔がある、という考え方からきています。極端に多重人格ではなくても、私たちはいろんな仮面をかぶって生活しています。家にいる時の自分と仕事の時の自分は多少違う振る舞いをすることが多いでしょうし、例えば家庭でも、みんなでいる時、1人でいる時、子供といる時、親といる時、パートナーといる時、兄弟といるときなど、一緒にいる相手でもちょっとずつ自分の態度が違うことがあると思います。また、同じ相手、同じ状況でも、その時の話題や体調、相手の様子などでも、自分の立ち振る舞いが変わることがあると思います。


それは、例えばオーケストラみたいなイメージでしょうか。たくさんの演奏家がいて、一つの曲を演奏しています。演奏家の一人一人がサブパーソナリティで、その指揮をしている人が、「セルフ」と呼ばれる、自己の中心的存在、ということになります。たくさんのサブパーソナリティがいても、「セルフ」が指揮をとってうまく調和が取れていると、特に大きな問題にはなりません。TPOに合わせて、自分の立ち振る舞いを上手に使い分けている、ということになると思います。


ところが、サブパーソナリティが、「セルフ」が意図していないところで急に動き出すと、少し困る場合が出てくると思います。指揮者の指揮に従わず、急にバイオリン奏者が違う曲を弾き出したら困りますよね。


実際、「なんであのとき、あんな風にしちゃったのかな」と思うことや、「いつもこのことがうまくいかないな」と感じているときには、想定していないサブパーソナリティが出てきてしまっていることがあると思います。まず、特定の状況で、よく顔を出してくるサブパーソナリティを認識することから、始められるといいと思います。


適応的なサブパーソナリティも含めて、自分にどんなサブパーソナリティがあるか、少し考えてみましょう。仕事にいるときに、テキパキしている自分だったり、逆に緊張して不安になっている自分、周りの顔色を見る自分、負けず嫌いな自分、冷静な自分、親切な自分、世話焼きな自分…仕事をしていても、状況や相手によって少しずつ違う自分がいると思います。家庭ヤプライベートではどうですか?リラックスしている自分、バタバタしている自分、イライラしている自分、何かに夢中になっている自分、疲れている自分、寂しい自分、楽しんでいる自分…その自分自分で、少しずつ表情、感情、意欲、考え方が違ってきているのではないでしょうか?


もう少し、このサブパーソナリティの話を続けます。

精神科医のつぶやき「本から得た知識のシェア|「精神科診断に代わるアプローチPTMF」」 (2025/06/03)

もう、いい加減の年になってきたので、インプットばかりせずにアウトプットもしていこうと思ってnoteを始めたのですが、つい面白そうな本があると買ってしまうんですよね。

そして、たいして読書が好きではないので、どんどん「読みたい本」が家の中に溜まってくるんですよ。


これは良くないと思い、読書を進めようと決心。

でも、ゆっくり読んでいたら終わらない。なので、得たい情報にターゲットを絞って読み、じっくり読みたい本は再読するスタイルで、情報収集していこうと思います。


頑張った自分の成果を確認する意味でも、仕事関連の本に関してはnoteにあげていこうと思います。


今回読んだのはこちらの図書。


精神科診断に代わるアプローチ PTMF

amzn.asia

4,180円


読みたいと思った動機

精神科診断が臨床では困難な場合が多く、またあまり意味をなさないことも多い。臨床の現場で、もっと患者さんに役に立つ、あるいは治療方針に参考になるアプローチがあるなら知りたいと思った。


得たい知識

PTMFってそもそも何か?

今の現場で役立ちそうな情報はあるか?

心理的苦悩を理解し整理する手法があるのか?


PTMFとは?

「パワー(Power)・脅威(Threat)・意味(Meaning)のフレームワーク」

その人にとってのパワー、脅威、意味を理解し統合していく、ということのようです。


パワーに関して

「どんなことがあなたに起きましたか?」

パワーがその人の人生にどのように作用しているのかを理解します。パワーにはポジティブな側面(強み、ストレングス)とネガティブな側面(脅威)とがあります。


脅威に関して

「その出来事はあなたにどのような影響を及ぼしましたか?」

人が心理的苦悩におちいった出来事があり、その出来事が、その人にどのように脅威であったかを理解します。


意味に関して

「あなたはそのことをどのように理解しましたか?」

そうした状況と経験をどのようにその人が意味付けているかを理解します。


また、その人の対処機構とパワーリソースを知ることも、重要視しています。

「生き延びるために、何をする必要がありましたか?」

「あなたの強み(ストレングス)は何ですか?」


今の現場で役立ちそうな情報

精神医学的診断は、薬物治療を行う上では有用

しかし、心理的苦悩を理解するためには、その人の語り(ナラティブ)が重要で、その人のストーリーを理解する必要があり、そのためにはPTMFの捉え方が役立つ

自分自身のストーリーの所有権を取り戻すために、自分の経験を再生すること、そして、真実を話すこと自体が、その人を回復させる力を持つ


心理的苦悩を理解し整理する手法があるのか?

PTMFでは、多くの人々の個々のストーリーに見られる一般的なパターンを要約している。その人のストーリーを理解するための参考指標になりそうである。


アイデンティティ

その文化、社会の中で、社会的地位の高いアイデンティティと、低いアイデンティティが存在する。例えば(残念なことではあるが)、女性、高齢者、障害者といったアイデンティティは社会的地位が低い傾向にある。軽視されたアイデンティティをもつ人々が、メンタル不調をきたしやすい。


拒絶、捕らわれた状態、無力化を生き延びる

虐待やネグレクト、いじめの経験のある人。

感情:拒絶、放棄、恥、罪悪感、空虚、無力感、無価値感

表現方法:解離、うつ、自傷行為、薬物使用

診断:「境界性パーソナリティ障害」「双極性障害」「解離性障害」「うつ病」「PTSD」「アルコール依存症」


子どもや若者のころに不安定な愛着と逆境を生き延びる

ネグレクト、虐待、暴力、親の喪失などの非常に困難な環境を人生の早期に経験した人。

感情:恥、恐怖、無価値感、不信感、怒り、自己否定、放棄、絶望

表現方法:活動亢進、不注意、攻撃性、解離、自傷行為、うつ、摂食の問題、薬物使用

診断:「愛着障害」「ADHD」「反抗挑戦性障害」「うつ病」「恐怖症」「不安症」


分離とアイデンティティの混乱を生き延びる

人生のさまざまな段階で、大切なものを失う体験や、自分のアイデンティティが脅威にさらされる体験をした人。

感情:拒絶、無価値感、恥、劣等感、支配されている、恐怖、侵入される、閉じ込められる

表現方法:完璧主義、怒り、反抗

診断:「統合失調症」「拒食症」「過食症」「うつ」「強迫性障害」


敗北、捕らわれ状態、分断、喪失を生き延びる

虐待的な関係などの慢性的なストレスの長期的な状況、貧困、孤独、失業、被災など、避けられない社会環境を生き延びた人。

感情:敗北、捕らわれ状態、孤独と孤立、絶望と喪失

表現方法:体調不良、痛み、うつ、倦怠感、あきらめ、自己非難、不安、アルコール・薬物使用

診断:「うつ」「不安症」「アルコール依存症」「物質乱用」


社会的排除、恥、強制力を生き延びる

家庭の内外両方で、幼い頃に脅威、差別、物質的剥奪、社会的排除に直面した人。

感情:無価値感、劣等感、無力感、恥、拒絶、不当感

表現方法:感情の遮断、不信感、警戒心、怒り・暴力、アルコール・薬物使用

診断:「反社会性パーソナリティ障害」「物質乱用」「境界性パーソナリティ障害」「双極性障害」


単一の脅威を生き延びる

レイプ、戦争での脅威など、一つの大きな出来事を生き延びた人。

感情:恐怖、屈辱、無力感、非難、恥、罪悪感

表現方法:鬱、不安、パニック、過覚醒、回避、フラッシュバック、麻痺、不眠症、アルコール・薬物使用

診断:「PTSD」


患者さんが抱えている困りごとから、その人が上記のどんな体験をした可能性があるのか、類推することが可能になりそうです。診断し、治療する中で、その人が何を語るのか、そして、何を患者さんと私たちが理解する必要があるのか、その指標になりそうです。そして、その理解を深めることが、患者さんを癒し、患者さんが回復する助けになるのだと思います。